イグザクロニクル〜失われた大陸と伝説の秘宝〜
ただの
プロローグ
青い海。
青い空。
かつて、人々はこの海の向こうに
楽園があると信じていた。
その名は――ウェポール。
それは遥か昔、人類と神が
築いたとされる、豊かなる理想郷。
けれど、その楽園に生きた人々は、
やがて欲望に支配され、
そのすべてを手放すことになる。
神々の怒り。
大陸の沈没。
そして、伝説の秘宝「ウォロック」の消失。
すべては、いまや神話の中の話――
*
世界は今も、変わり続けている。
空はより高く、海はより深く。
雲の上では飛行機が静かな弧を描き、
海深くでは潜水艇が灯りをともして
かつて誰も知らなかった世界を照らしている。
科学は神話を塗り替え、
人は空想を忘れていった。
それでも、語り継ぐ者はいた。
この島にも、かつて空から
舞い降りた女神の話が残されている。
争いを止め、命を守り、
静かに姿を消した存在――ティアナ。
その物語は、私にとって、
“母の声”として、
子守唄のように心に残っていた。
――あの時、母がしてくれたおとぎ話。
それが、私のすべての始まりだった。
*
むかしむかし、
世界は広く、たくさんの大地に分かれていました。
人も獣も、空を飛ぶ鳥たちも、
それぞれの大地に生まれ、
同じ空を見上げながら生きていました。
けれどある日、
人の心に大きな闇のちからが忍びこみました。
強くなりたい者、奪いたい者、
だれよりも上に立ちたい者たちが
争いを始めたのです。
空は黒くよごれ、
大地は叫び声をあげ、
海は怒りに満ちて、
世界はバラバラに壊れかけました。
そんなとき――
天の光のなかから
女神ティアナがあらわれました。
ティアナさまはとても美しく、
やさしいかたで、ひとの言葉だけでなく、
獣の声、風のうた、星のささやきさえも
聞くことができました。
ティアナさまは、ウォロックという
ふしぎな力を持っていました。
ウォロックは、
鳥に空の道を思い出させ、
木に眠る水を目覚めさせ、
人の心を静かに照らす、不思議な力。
ティアナさまは、
そのウォロックで、
戦を止め、
怒りをしずめ、
にくしみをやさしさに変えていきました。
ですが、
長い争いのあとに残った闇のちからは、
大地を黒くよごし、生き物たちの命を
ゆっくりとむしばんでいきました。
それを見たティアナさまは、
人々と手を取り合い、
ウェポールという
あたらしい大陸をつくりました。
山には歌う泉がわき、
森には光の花が咲き、
空には虹の道がかかる、
まるで夢のような
理想郷です。
部屋は薄暗く、油灯のゆらめきが
天井に柔らかな影を落としていた。
幼い少女は母の腕の中で、毛布に
くるまりながら眠気と物語の狭間を漂っている。
母の声がそっと続けた。
(母親)
「……そこでティアナさまと人々は、
笑い合い、歌い、支え合いながら
しあわせにくらしたとさ。
めでたし、めでたし――」
絵本のページが静かに閉じられる音。
その音に合わせて、幼い少女は
まぶたをこすりながらぽつりと口を開く。
(少女)
「……おかあさん、またこのお話ー?」
母はふと動きを止め優しく微笑んだ。
彼女の首元には、銀色の細く編まれた鎖に
繋がれた、丸いペンダントが揺れていた。
その中央には、どこか異国風の
不思議な紋章が刻まれている――
母はそのペンダントにそっと指を添えると、
少しだけ目を伏せ、静かに語りかけるように
言った。
(母親)
「おかあさんはね、
イオリに……ティアナさまのような、
誰かに光を与えられるような人に
なってほしいなーって思ってるの」
少女は少し考えた。
(少女)
「ひかりー?......。意味わかんない」
少女はそう言いながら母の胸に顔をうずめ、あくびをひとつ。
そのまま、ことり、と眠りに落ちていった。
母はその小さな背中を抱きしめたまま、
しばらく動かなかった。
微笑みながら、その瞳には、
いつしかうっすらと涙が浮かんだ。
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