夢を買う

青銅正人

夢を買う

 歳末になると運気や縁起担ぎの話を普段よりよく聞くような気がする。


 今朝もワイドショーで宝クジの話をしていた。「高額当選が3つでた」と言う見出しだったが、実際の話は一つ出た店と二つ出た店が近くにあると言う話だった。

 宝クジの店には沢山の購入希望者が列をなしていた。

「当たったら、何に使うか考えることが楽しいんです」

「夢を買っているんです」

宝クジを買おうとしている人たちは、口々にインタビューに答えていた。


 宝クジは「貧弱の税金」と言った人がいるとか。確かに税金を払うのは普通みんな嫌がるし、収入が少なくて所得税を払わないで良い人もいる。そんな人からお金を巻き上げるには、宝クジは良い手法だ。


 宝クジはほぼ絶対に元が取れないのは、中学校ぐらいで平均値を習った時に知った。それを指摘すると、

「買わなきゃ、当たらない」

と宝クジを買う知人達は言う。もっともな主張だ。理屈の上では、限りなくゼロと本当にゼロは違うのだから。


 同じように、どこで買おうと結果は同じだ、と指摘しても、

「実績が違う」

と知人達は返してくる。僕は、単に売れたクジの総数が多いから……と言いたくなるが、場が白けるので言わないようにしている。


 食後のコーヒーを飲み終えて、僕はいつも通り趣味の小説を書くことにした。書き上げた小説は、丁度開催されているコンテストに投稿するのだ。

 もう既に応募総数が七千を超えている。ファンや常連読者のいない僕にとって厳しい状況だ。PVや星が稼げないと、中間選考を突破できないからだ。

 あれ? これって宝クジ当選と同じくらい不可能では? イヤイヤ、宝クジと違って小説には、努力が反映されるから……、でも最初に読んでもらうのは、運では?


 僕は、とりあえず小説を仕上げて応募した。投稿しないと始まらないから。あれ、この言いぐさも……。


 ところで、投稿の場合に税金のように弱小ライターから回収されているものは、何なんだろうか?

 おや、このネタでまた新しい夢が買えるかもしれない。



 

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