月に契約を夜に代償を
綴音華柏(つづねこはく)
プロローグ 月はまだ奪わない
夜はいつも静かに訪れる。でもそれが自然に来るものではないということを知ったのは、私が初めて冴の名前を呼んだ時だった。
月の光が強すぎて影の輪郭が曖昧になる。静まり返った世界の中で私はそっと胸元に刻まれた紋様に触れる。冷たいはずなのに指が離れない。
魔法を使う条件は一つだけ。契約主の名前を呼ぶこと。それが助けを求める声でもあり自分自身を差し出す行為であることも……私はもう知っている。
「……冴」
名前を呼べば夜が揺れた。月光が降り、空気が縫い留められるように張り詰めた。裂けかけていた夜はもう何事も無かったかのように静まり返り世界は正しい形へと戻った。
《よく出来たな夜羽。夜はちゃんと縫われた。》
振り返らなくてもわかる優しい声。月に属する存在であり名前を呼ぶことで世界に触れることができる私の契約主。
夜を守る度、私は少しずつ人ではなくなる。それでも冴の名前を呼ぶのはこの世界を守るためだけじゃない。冴の声が失われていく全てよりも近くにあるから。
だから私は今夜も冴の名を呼ぶ。
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