始まり

 東京都某所の児童養護施設、『めぐりの家』に球(キュウ)、零(レイ)、輪(リン)という少年少女が同時期にいたのは6歳までだった。その後、輪という少女だけが養子となり、施設を離れていった。その際に球は輪のことを嘘つきだと罵(ののし)った。零も言葉には出さないが、裏切られたような心情を持っていた。それまでの3人は傍(はた)から見ても、とても仲が良かっただけに、離別の時は本当の家族が離れていくような痛々しさがあった。ほどなくして、近くにある学園の初等部で再開した3人だが、気まずかったのは言うまでもない。輪はその夜、養父に相談した。「前の家にいた友達と顔を合わせたくないの」それは何故かと問う養父に輪は困惑した。自分でもどうしてよいのか分からないからだった。養父は、次に会ったら謝ることと、前のように仲良くしてくれるよう頼んでみるとよいと言い渡し、輪を寝床に追いやった。翌日、輪が言われた通り謝ると球と零は申し訳なさそうな顔をした。「僕も急にいなくなるって聞いてびっくりしたから、ごめん」と零が言い。隣でそわそわしている球を小突いた。「俺は言われるまでもなく、最初から気付いてたぜ」と言った球は、「あちっ!」と顔を顰(しか)めた。頬にマッチの火を当てられたような痛みを感じ、反射的に手で叩く。虫にでも噛まれたのかと思ったが、零も輪もその行動を訝(いぶか)しんだ。その後、決まりが悪そうに球も、「ごめんな」と一言謝った。球の失言に輪は気付かなかったが、仲直りの仲介を務めた人物がいた。その甲斐(かい)あって、その後の学園生活は円満に過ぎていった。

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