スーパーマンマーケット

ちびまるフォイ

共食い

スーパーマンマーケット「ヒーローヨーカドー」。

街を守るヒーロー達がこぞって利用している。


「さて。今日も買い出ししなくちゃ」


基本的にヒーローは救急隊員と同じで、

昼も夜もなく通報があればどこへでもすっ飛んでいく。


それだけに家の食事や日用品は買いだめする必要がある。

仕事終わりにちょっと寄って買うなんてできない。


スーパーマンマーケットを飛び回って商品をカゴに詰めてゆく。


店舗内はヒーロー向けに天井高くされ、

マントをはためかせて買い物カゴさげたヒーローが行き交っている。


足元ではヒーロー向け新商品を紹介する店員が見える。


「さあさあ、忙しいヒーロー活動の相棒!

 バランス&高カロリー栄養食"サイドキック"を食べてって!」


「このマントは頑丈で汚れもつかない!

 どんな汚れがついても水で元通り!」


「着地するときの足の負担が年々辛くなってる?

 それなら衝撃吸収インソールを入れれば、ヒーロー着地で痛み知らず!」


どれもヒーローにターゲットを絞った商品。

一般人のスーパーマーケットでは見ることもできない。


「ふう。だいぶ買ったな。これだけあればいいか」


カゴいっぱいに商品を詰め終わってレジに並ぶ。

これで1週間は外を飛び回っても大丈夫だろう。


「いらっしゃいませ。レジ袋はいりますか?」


「あいらないです。マントに包んで持って帰ります」


「はい」


黙々と店員がバーコードを読んでカゴに移す。

すべての商品が読み取り終わった。


「しめて、お会計4万5000Vになります」


「よ、よんまっ……そんなに!?」


「はい。間違いないです」


「と、とても手持ちのVヴィランポイントじゃ足りない……」


「商品戻しますか?」


「う、うーーん……。でもどれも必要なものだし……」


ヒーロー活動はほぼボランティア。

悪いやつを倒して感謝されて終わり。

投げ銭されれば良い方で、基本的には無償の活動。


日常生活を送るために必要なものは、

一般人にまぎれて副業で会社に入ったりしている人や、

自分のように「Vポイント」で生活している人もいる。


「あのぅ……ツケってできますか?」


「できますよ、ヒーロー免許証の読み取り必要ですが」


「ではツケで。必ずVポイントでお支払いしますので!」


「期限は1日です。それ以上は遅れた場合には……」


「わ、わかってます!」


スーパーマンマーケットの入口近くにある掲示板へ向かう。

そこには街で探している極悪ヴィラン達が貼られていた。


無償活動のヒーローには悪いやつを倒すともらえる「Vヴィランポイント」がある。


とくに悪いやつや強敵を倒すと多くもらえる。

スーパーマンマーケットでWANTEDされてるようなやつは特に高い。


「ようし、〇〇地区だな。こいつを倒してツケを払ってやる!」


買い物を終えて一度家に引き返してから、

ツケを払うためにヴィラン発生地区へとひとっとび。


「いた! あいつだ!!」


スーパーマンマーケットで見かけた顔写真。

そのヴィランがちょうどまさに悪行をしているところだった。


「ゲッゲッゲ! ワシは爆弾魔エクスプロード。

 人間どもよ、全員爆弾してやるゲ!」


もう見るからに悪そうで安心する。

ヒーローの力で八つ裂きにしても感謝されるだろう。

自分の力を全解放できるチャンスに武者震いする。


「まてーーい!」


「ゲゲ?」


「爆弾魔エクスプロード、悪行もそこまでだ!

 私が来たからには……あれ?」


いつもの名乗り口上をするつもりが、

爆弾魔を挟んで向かい側に立つ別のヒーローと目が合う。


「おい、なに横取りしようとしてるんだ。

 このヴィランは先にこっちが見つけたんだぞ」


「いやいや、そっちこそ! ほぼ同時だろ!?」


「いいやこっちのが早かった!!」


どちらがVポイントを手に入れるか。

やっと見つけた金づるを手放したくない。


言い争いがヒートアップしたとき。


透明ヒーロー・スケルトンがヴィランを倒してしまった。


「「 あ゛っ!!! 」」


「お先。こういうのは早いもの勝ちに決まってるっしょ」


スケルトンのヒーローフォンにVポイントがチャージされてしまった。

もう自分が先に見つけたなどと言っても遅い。


「ああそんな……。これじゃツケが払えない……」


他のヒーローたちは次の悪者を探して飛び立った。

自分だけツケの支払いに絶望してひざまづく。


しかし絶望の淵に立たされるほど、

ヒーローは思わぬ力を発揮できるようで頭が回る。


「いや待てよ……? むしろこっちのがいいんじゃないか。

 きっとツケの支払いを取り立てにくるだろう。

 それをヒーローにたてつくヴィランとして扱えば……」


禁断のマッチポンプを思いつく。

ヴィランかそうでないかの区別は、ヒーローと敵対するかどうか。


ツケの支払いを求めて店舗の手先がやってきたなら、

それを言葉巧みに悪人ぽく見せればよい。


そうしてツケ払いを求めた店員をぶっとばせば

ツケを踏み倒し、あまつさえVポイントすら手に入るかも。


まして自分はヒーロー。

一般人が働くスーパーマンマーケットなんて怖くない。


「ふ、ふふ。そうだよ、俺はヒーローなんだ。

 なにを一般人のとりたてに怯えてるんだか」


怯えていた自分が馬鹿らしくなった。

ヒーローフォンからはツケ払いの遅延による警告が出た。

やかましいので握りつぶす。


「ははは。こんなの怖くない。

 さあ、スーパーマンマーケットの奴らを倒してやる!」


力のリミッターを外して完全な臨戦態勢を取る。

まもなく、流星のごとくスーパーマンマーケットの手先が飛んできた。


拳を地面に突き立てるような鮮やかなヒーロー着地。

その顔に見覚えが合った。


「あ、あなたは……!! 伝説のヒーロー・ジャッジマン!?」


「お前か。ツケ払いをしていないやつは」


圧倒的なパワーでヴィランを蹴散らした伝説のヒーロー。

往年の英雄がいま目の前に現れたことに驚く。


いやそれよりも。


「取り立てに来るのって一般人じゃないんですか!?」


「当たり前だ。不届きなスーパーマンどもから取り立てるのに

 同じスーパーパワーを持つものがやるに決まってるだろ」


「ま、待ってください。ヒーロー同士の戦いは

 ヒーロー憲法第4条で禁止されています!」


「ヒーロー?」


ジャッジマンは首をかしげた。


「踏み倒そうとしてるお前はとっくにヒーローなんかじゃないだろ」


「ち、ちがっ……」


いくら自分の力を解放したところで英雄に勝てるわけがない。

それほどまでに圧倒的な力の差がある。

プロ選手に素人が格闘技挑むようなものだ。


「それじゃ覚悟してもらおうか」


「ちょっ……ストップストップ!

 お互いヒーローですよ!? こんなの許されない!」


「お前はヴィランだろ。さあこれで終わりだ」


「どうしてそんなに店の手先に成り下がるんです!?

 あなたくらいの力があれば、もっとヒーロー活動できるでしょ!?

 俺みたいな小悪党を取り締まらなくても!?」


「そんなの決まってる」


ジャッジマンはヒーローパンチで盗人を粉々にくだいた。



「店の手先やってるほうが、ずっと稼げて幸せなんだよ」



ジャッジマンにVポイントが入る。

店舗に戻ると獲得したVポイントがスーパーマンマーケットに回収される。


「これでいいですか?」


「はいけっこうです。これでジャッジマンさんのすべてのツケは払われました」


晴れてジャッジマンは店の犬を卒業する。


でもヴィランより数の多いので、

それからもヒーロー狩りは続けることにした。

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