メダルの魔法使い ~隣のクラスに巻き込まれて異世界へと~
十本スイ
プロローグ
「悪いな
笑いながらも申し訳なさそうに言うのは、先月に問題なく高校二年生へとステップアップした七原
今は五時限目が終わり、六時限目と続く短い休み時間ではあるのだが、その間にトイレへと足を延ばした帰り、近くにある視聴覚室の扉から、この教師――遠藤が顔をヒョコッと出して、その視界に日映を捉えるとニヤリとしたのである。
嫌な予感がしたと思ったら、案の定、次の授業で使うらしい視聴覚室の準備を手伝わされることになったというわけだ。
断っても良かったが、別に急いでいるわけでもなかったので、これで彼の担当する数学の授業の成績に少しでも色がつくならと思って手助けすることにした。
「気にしなくても良いですよ。ですが、準備が間に合っていなかったのでしたら、担当クラスの人たちに頼めば良かったのでは?」
「だから手伝わせようと思って部屋を出たところにお前がいたからな」
なるほど。どうやら間の悪いタイミングで遭遇してしまったということだろう。
「それにお前って真面目だし、頼めば文句言わずやってくれるだろ?」
英語の授業では、彼に世話になっているが、その時のやり取りなどで日映の性格を把握していたに違いない。
一応授業は真面目に受けているし、成績もそれなりに上位を維持しているつもりだが、今回に限ってはその高評価が裏目に出たようで、思わず苦笑が浮かんでしまう。
そして一通り準備が終わり、やっと教室に戻れると思ったが、どうせ行く途中なのだからと、授業で使うプリントをDクラスに届けてほしいと頼まれ、本心では乗り気ではないが渋々引き受けることになった。
プリントを受け取った日映は、残り少ない休み時間を少しでも有益に過ごすために足早にDクラスへと向かう。
早く任務を終わらせて、せめて一分でもいいから自分の席に座ってゆっくりしたかった。
そうしてDクラスに到着すると、教卓がある側の扉を開く。当然クラスメイトではない日映を見て、各々反応を示すDクラスの生徒たち。注目を浴びる中、
「すみません。遠藤先生に、このプリントを持っていって欲しいって言われました」
そう言って、プリントを見せる。
「え? ああ、そういうことか。んじゃ、そこに置いといてくれよ」
生徒の一人が教卓を指差す。日映としては受け取ってくれた方が良かったが、気の利かない生徒に対して肩を竦めつつ、仕方なく中へと入ることにした。
言われた通りに、教卓にプリントを置く。そのまますぐにその場を去ろうとするが、「ひ、ひーくん」と声を掛けられたので視線を向けると、その先には一人の女子生徒が立っていた。
「…………
見知っている人物だった。
腰中まで伸びている髪を、後ろで二つに結った三つ編みが特徴的な女子生徒――釘森
そんな彼女の大きな目が少し不安そうに揺らぎ、表情も明らかに固い。
「っ…………もう名前で呼んでくれないんだね」
そして悲しそうに目を伏せる風和。
そんな表情を見せる理由を日映は知っている。だがだからこそ、このクラスに彼女がいることを知っていたからこそ、ここに足を踏み入れるのはあまり気乗りしなかったのだ。
彼女――風和の傍に寄り沿うのは、女子にしては比較的長身の女子生徒である。こちらの名前は何だったか……と、日映が思考を巡らすが出てこない。
長身の女子生徒が、こちらをジロリと睨みつけてくる。明らかに怒気が混じっている。元々鋭い目つきがさらに迫力を増しているので、思わず気圧されそうになってしまう。
「用が無いなら急いでるんで」
早く去りたい一心からそれだけを言うと、すぐに踵を返して扉へと向かう。後ろで「あ……」と風和の声が聞こえた気がしたが、その続きは即座に閉ざされる。
何故なら――――――突然、床が眩い輝きを放ったからだ。
それはまるで、傍で花火でも打ち上がったような色鮮やかな光。教室にいた全員が、その眩しさに目を瞑ったり、腕で目を覆ったりと反射的に光を遮ろうとする。
そしてそれは日映もまた同じ。ただ、他の人と違うのは、眩い中でも少しだけ瞼を上げて床を見つめていたこと。
(っ…………魔法……陣?)
まるでゲームや漫画に出てくるような幾何学模様を光で描いたような図。それが垣間見えた……が、すぐにホワイトアウトして何も見えなくなった。
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