駅前集合、6時半
遠山ラムネ
駅前集合、6時半
駅前集合
6時半!
と、でかでかと書かれた黒板を見ている。
なにやらスタイリッシュにデコられたレタリング。
黒板にチョークなんて描きやすくはないだろうに、いろんな才能に溢れた人はたくさんいるんだなと、つい唇を引き結ぶ。
私は、なんにもできないし
クラスでも、全然目立たないし
クリスマス打ち上げをやるという、そんな派手目なイベントに、私なんかが参加していいものか、と迷う。
参加したくないわけじゃない。みんなが、このクラスが、苦手なわけじゃない。でも。
私ってたぶん、空気みたいだし………
いてもいなくてもいい存在なら、いない方がいいんじゃないかな
そのほうが、なんか、邪魔にもならないし
そんなことを考えながら、ぐずぐず席を離れられずにいた。
どうしようかな。
駅前集合6時半。
別に呼ばれてるわけじゃない。
拒まれているわけでもないけど。
ガラガラガラっと、突然大きな音がした。
教室後ろの引き戸が開いで、ひょこっと顔が出てくる。クラスメイトの、駒形くん。
「あれ?まだいたの?」
「え、あ、うん」
「みんな行っただろ?行かないの?あれ」
彼が軽く指差すは当然黒板の文字。
「えー、っと、どうしようかな、と」
「え、なんで?なんか用ある?あ、もしかして彼氏とか?いるの?」
「い、いないよっ、いるわけないじゃん、私なんか」
「なんで?富田さん清楚系美少女、て、結構言われてっから」
「え、ええ?なに、それ」
「知らない?わりと有名だけどね」
「し、知らない」
「へーえ、意外と本人が一番分かってないってね」
駒形くんは、部活かなんかだったのだろうか。
机からなにやら引っ張り出し、鞄に突っ込んでいる。
「もう出れる?」
「え、あ、うん」
「じゃあ行こう」
「え、あ、あの、私まだ……」
「行こうよ」
半ば強引な言葉の、でもその声は熱くも冷たくもない常温で。
私はつい、駒形くんの顔を見る。思ってた以上に、綺麗な目だな、なんて、変なことを瞬間思った。
「このまま行く?いったん家帰る?」
「あ、このまま……ちょっと、親に連絡する」
「そうしな。帰りは誰か、誰かしら男子が送ってくよ、ま、俺でもいいし」
「え、なんで?」
「だって、富田さん清楚系美少女だから」
そう言って駒形くんはクククッと笑ったから、今ちょっとからかわれたんだと分かった。
分かったけど、別に嫌な気分になることはなくって、私はそのまま、彼に続いて教室を出る。
手の中のスマホが、小さく振動してメッセージが届く。
『いいね!行っておいで!楽しんでね!』
クラスの打ち上げに行くと言っただけなのに、スマホの中の母は、何故かやたらとハイテンション。
なんでお母さん、こんなはしゃいでんだろ?
なんてね。
理由はだいたい分かってんだ。
どんどん歩いていく駒形くんを、小走りで追いかける。
人生初めての打ち上げは、高校1年のクリスマスイブ。
Fin
駅前集合、6時半 遠山ラムネ @ramune_toyama
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