状態異常魔法使いの幸福な再婚

春秋花壇

状態異常魔法使いの幸福な再婚

状態異常魔法使いの幸福な再婚


花束は

いつも強すぎた

色も

香りも

期待も


あなたが差し出した視線は

静かで

逃げ場があった


私は

「愛されなかった」のではなく

「刺激に晒されていた」のだと

ようやく知った


攻撃魔法を持たない手で

私は

空気を撫でる


音を

半音だけ下げ

光を

一段だけ落とす


それだけで

世界は

呼吸を思い出す


あなたの隣では

言葉が

急がなくていい


沈黙が

責めてこない


心拍が

私の鼓動に

そっと並ぶ


――ああ

これが

安全という感覚


大きな愛はいらない

燃え上がる誓いも

跪く王も


ただ

同じ温度の湯気を見て


あなたの眠りが

深いことを

確認できれば


それでいい


毒は

薄めれば

薬になる


恐怖は

整えれば

秩序になる


無能と呼ばれた魔法は

今日も

誰も殺さず


静かに

世界を保っている


私は

支配しない

奪わない

壊さない


ただ

調整する


あなたが

息をしやすい位置に

世界を

少しだけ動かす


それが

私の魔法

それが

私の結婚


状態異常魔法使いは

今日も

幸福です


――静かに

確かに


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