第4話
1月。
澄み切った空気が冷たく、通行人が皆体を小さく縮こめながら首を
今日はいつもより少し遅く家を出て、お気に入りのコーヒーショップに寄り道をしてからの出勤だ。すでに出社していた部下たちに声をかける。
「おはよう!」
「「「おはようございます!」」」
なんと気持ちの良い挨拶だろう。
挨拶だけではない。冬の空気も、この高層オフィスから見える景色も、部下たちの働く顔も、通勤途中に見た猫も、コーヒーショップの香りも、カーテンから差し込んだ朝日も、見るもの、触れるもの、感じるもの全てが気持ちのいい朝だった。
自席に着くなり声がかかる。
「課長、こちら頼まれていた資料です」
「ありがとう。そうだ、黒岩くん、これも頼めるかな」
彼は時期はずれの転勤をしてきた男だ。この数週間で、どうやら仕事がよくできるらしいということが分かってきていた。
「承知しました。ところで、気に障ったら申し訳ないのですが、なんだか憑き物が取れたかのようにスッキリしていらっしゃいますね」
「えっ、そう?」
予想もしていなかったことを言われ、間の抜けた返事をしてしまった。
そうか。他人から見てもわかるくらいに、私は晴れやかな雰囲気を纏っているのか。
ということは、今までどれだけ辛気臭い姿を皆に晒していたんだろうか……。考えて恐ろしくなる。
「何か良いことでもありましたか?」
問いかけの中に、そうであったら何よりですとでも言いたげな笑みを浮かべる彼に、理由を言うか、言うまいか、一瞬悩んで、プライベートと仕事は切り分けようと判断した。
「機会があったら話すよ。さあ、仕事しましょう」
自分が長い間抱いていた不安や葛藤の核心に触れ、行動したことで、日々悩まされていた焦燥感からようやく解放されて、本当の意味で仕事に専念できるようになったことが、ただただ嬉しかった。
ところで、気付かせてくれたあのドラマは、すでに最終回を迎え、原作小説を読んだ時と同じ感動に包んでくれた。
あの時あそこで投げてしまわなくて本当に良かった。でなければ、今ごろこんな自分には出会えなかった。
あとはパートナーになってくれる人を探すだけだな……と、新たな悩みと言うべきか、原点回帰というべきか、また余計な感情が浮かんでいることに気が付いて、振り払う。
「さて、仕事仕事っと」
ドラマのような出会いとはいかないだろうが、未来の旦那様-旦那様の卵-と出会える日を夢見つつ。
未来の旦那様 鈴公 @suzuko-
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