未来の旦那様

鈴公

第1話

「結婚おめでとう」

「おめでとう!」

「寿退社か〜」

「必ず同期会しようね!」


 また一人、後輩が結婚した。


「皆さんありがとうございます。お世話になりました!」


 部署一同からの祝福を受け、カラフルな小ぶりの花束を抱えた彼女は、皆に笑顔でお辞儀をしながらオフィスの出口へと向かっていく。

 通り過ぎると思ったその時、私の目の前で立ち止まった。


「課長。結婚式にはご招待させてください……!」


 なんでわざわざここで言う?と聞いてしまいたくなる気持ちを抑え、ここは大人の余裕で対応する。


「もちろん。楽しみにしてる」


 前言撤回。正直、余裕などない。

 社会に出てから仕事一筋。今年で35歳になる。転職を経て大手企業に入社し、なんとか今の地位まで昇進したのだ。

 周りはどんどん結婚し、子供がいるのが「当たり前」になりつつある年齢で、今は恋人もいないこの状況に焦りを感じないわけがない。

 いや、焦らない人もいるかもしれないが、私、磯崎いそざき香織かおりは、一人でもいいと思えるタイプの女ではなかった。


 なんなら、結婚に憧れてさえいる。

 それでもタイミングがそれを許してくれなかったのだ。



 あれは何年前だっただろうか。

 転職して数年、役職が主任に上がった頃だったと記憶している。

 当時の私は仕事がとても充実していて、彼氏とは遠距離恋愛中だったため、こう言ってはなんだが、ちょうどいい距離感で過ごすことができていた。

 そんな中、彼氏の転勤が決まり、結婚して一緒に北海道に来ないかと誘われたのだった。


「あの時彼に着いていってたら、今頃どうなってたのかな……」

「課長、どうしたんですか?」


 ふと我に返る。

 そうか、今は直属の部下たちとのランチタイムだった。


「ごめん、なんでもない」

「恋愛の話ですか……!?」

「ちょっと、最近見たドラマのことを思い出してね」


 苦しい言い訳だが、誰も突っ込んではこないだろう。


「そういえば今やってるあのドラマ、見てます!?」

「もしかしてあれ?あのイケメン俳優の……!」

「なんてタイトルだっけ、えーっとたしか……」


 案の定、私の恋愛の話など1mmミリも興味を持たれず、質問の主含め、彼女たちは即座に移り変わった話題で盛り上がっている。

 若い頃は自分もこうだったかな……などと、考えたくもない歳の差を実感させられて憂鬱になる。

 部下のうちの一人が大声を出す。


「思い出した!『未来の旦那様』だ!」

「シー!ちょっと声でかいよ!」

「ごめんごめん」


 全く、彼女たちの賑やかなことといったら……。

 でも、そんな彼女たちのおかげで、仕事がやれていると言っても過言ではない。

 役職のついている女性がそう多くない社内で、私が円滑に業務を進められるようにとの意図なのか、女性ばかりのチームで固めてくれたのが私の課だ。

 決して、私が男性社員と恋仲になっては困るから、などといった理由ではない。

 ……と、思いたい。


 やはりこの歳で独身は、腫れ物に触るみたいな扱いされるよなあ……。それも被害妄想なのかな?


 今度は声に出さないようにと、部下たちの話を聞いているふりをしながら、心ここにあらずなランチタイムとなったのだった。

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