ep.1『霹靂』②
***
ヴォルガーがその才能を見出されたのは、十にも満たない頃だった。
孤児だったヴォルガーを引き取り、育てたのは、伝説的な英雄であり歴史上最強と謳われる格闘家・開天盤古その人だ。
幾度となく世界を窮地から救った師匠はその晩年を、後継者の育成に注いだ。彼の認めた天才だけが集まる道場、ヴォルガーはその門下生の一人となったのだ。
将来を見込まれた若者ばかりが集まる道場においてもヴォルガー程の年齢で入門する者は例が無く、心配する者や侮る者は大勢いた。
しかし、数々の伝説を残した師匠は人を見る目もまた確かであり、幼かったヴォルガーはみるみるうちに頭角を現した。
12歳にしてドラゴンを狩り、13歳でゴリラと引き分けた。
だが、それほどの才能を発揮したヴォルガーであっても決してNo.1の実力者ではなかったというのが、この道場の凄まじさであった。
長年に渡って世界中の才能を集め、鍛え続けた道場は、ヴォルガー達の代でまさに最高潮を迎えていたのだ。
弟子達は皆、偉大な師から学ぶことを喜び、才能ある仲間達と切磋琢磨できる高揚感、魔物の脅威から人々を守る使命感に燃えていた。
誰よりもストイックな師匠の方針で山奥にある道場は一切の娯楽と隔絶されていたが、そんな環境にも不満を述べる者は存在しなかった。
同年代の若者達が遊びまわる時間の全てを、鍛え高めることに費やす……それが、男達にとっては最高の青春だった。
――そう、思っていた。
ある夜、最も優秀な弟子が門下生を一同に集めた。
誰よりも熱心に修行し、師匠すら超える実力を身につけた兄弟子が、道場のルールを破って消灯時間の後に『話がある』と門下生を集めたのだ。
ルールに反しているから明日にするべき……と窘める者はいなかった。
尊敬と信頼を集める一番弟子がルールを破ってまで伝えたいこととは、一体何なのか……。
その一番弟子を除いて665人いた門下生達は、固唾を飲んで彼の言葉を待った。
「兄者、話とは一体なんなのだ?」
彼に次ぐ実力者だったヴォルガーは、重い空気の中で隣から彼に訊ねる。
その問いかけをきっかけに、一番弟子は静かに口を開き、そして告げた。
「乳首を指でいじり続けるとな……凄いぞ」
広い寝室が、にわかにざわついた。
「凄い……?」
「乳首が……??」
「凄い……???」
彼が
しかし、それでも尊敬する一番弟子の勧めだ。彼らは迷わず乳首をいじってみる。
静寂に包まれた山奥の夜。
布団の中で、門下生達は一様にもぞもぞと乳首をいじる。
しかし、何が『凄い』のかはイマイチわからない。
精々少しくすぐったいという程度で、時折『ん……♡』という甘い声が漏れるばかりであった。
だが……彼らはいつの間にか、その『少しくすぐったい』を求めて乳首をいじっていた。毎晩毎晩、それが就寝前の日課になっていた。
それは、厳しい教育を受ける子供が国語の教科書を読み耽るような、なけなしの娯楽だったのだろう。
しかし、想像力の豊かな子供が短い物語から無限の可能性を羽ばたかせるように、肉体を鍛え上げた彼らは乳首をいじればいじるほどすっ、すごいっ♡♡♡
こんな気持ちいいの♡♡♡ 知らないッ♡♡♡
「「「「「お゛ッ♡ お゛ッッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡♡ お゛お゛お゛ンンッッッ♡♡♡♡ お゛ッ♡ お゛ッッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡♡ お゛お゛お゛ンンッッッ♡♡♡♡ お゛ッ♡ お゛ッッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡♡ お゛お゛お゛ンンッッッ♡♡♡♡ お゛ッ♡ お゛ッッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡♡ お゛お゛お゛ンンッッッ♡♡♡♡ お゛ッ♡ お゛ッッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡♡ お゛お゛お゛ンンッッッ♡♡♡♡」」」」」
かくして道場は伏魔殿と化した!!!
777畳の寝室に、666人の若き猛りが響きわたる!! 空をも震わす喘ぎ声に森は揺れ、山は唸りをあげる!! 最早魔物はおろか虫一匹も寄りつかぬ大災害!!!
歴戦の勇士である師匠も、この事態には戦慄を覚えた!!!
「い、いかん……弟子達が狂うてしもうた……」
師匠は一切の娯楽を禁じた過度なストイックさを省み、毎回の食事にプリンをつけるなどして弟子達を慰めたが、芳しい効果は現れなかった。
何故なら人間は、プリンがなくてもギリギリのところで生きていけるが乳首がなければ死んでしまうからだ!!!
衣・食・住・乳首!!! 食事・睡眠・排泄・乳首!!!!
やがて師匠は鬼籍に入った。
門下生達は各々の道に進み、ヴォルガーもまた魔王との戦いに身を投じたが……かつての習慣が失われることはない。
彼は鍛錬を決して怠らず、乳首の開発にも邁進し続けた!!!!
***
「お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛お゛お゛ッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛お゛お゛ッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛お゛お゛ッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛お゛お゛ッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛お゛お゛ッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛お゛お゛ッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛お゛お゛ッッッ♡♡♡」
勇者ギデオンは大剣を軽々と振るうその膂力でヴォルガーの腕を掴むが、勢いを増す乳首開発は全く止まる気配を見せない!!!
「畜生ぉぉぉ!!! 力が強すぎる!!!」
リア王女はヴォルガーの顔を叩きまわすが、一切反応はない!!!
ハエが止まった程度にも感じない!!!
「なんなんじゃこの無駄に凄い集中力は!! 死ぬまで乳首をいじるつもりかこの痴れ者めぇ!!」
最早手段は選んでいられない、とリア王女は指先から激しく閃光する雷を放つ!!!
「サンダー・ボルトッッ!!」
ミノタウロスも即死する高電圧がヴォルガーの瑞々しき乳首に襲いかかる!!!
バチバチバチバチィィィィィッッッ!!!!
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛んんんッッッ♡♡♡♡♡♡」
「ちくしょぉぉぉぉッッッ!!!! 全く効いてないッッ!!!!」
「それどころか感じておるッッ!!! 感じるな馬鹿者ッッッ!!!」
ギデオンとリアがどれだけ攻撃をくわえようと、鋼の肉体と桃色の乳首は一切動じない!!!
宿屋を激しく揺らす攻防と喘ぎ声の中、隣の部屋のラピアだけが壁にへばりついてその大音声に悦びを感じていた……。
「お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛ッッ♡♡ お゛お゛お゛んんッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛ッッ♡♡ お゛お゛お゛んんッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛ッッ♡♡ お゛お゛お゛んんッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛ッッ♡♡ お゛お゛お゛んんッッッ♡♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛んッッ♡♡ お゛ッ♡♡ お゛お゛ッッ♡♡ お゛お゛お゛んんッッッ♡♡♡」
***
「ヴォルガー……パーティから出て行ってくれ……」
「え゛っっっ!!?」
それは、青天の霹靂だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます