待っててね

田中水

第1話

『桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!』

名前は忘れたが確かそんな小説の冒頭が口からでた。やっと芽吹いてきた桜の樹の下。ため息をひとつ。スマホを開くと3月3日午前3時3分。すぐにググる。エンジェルナンバー3333。「人生の大きな好転や新しいステージへの移行、願望成就が近づいていることを示唆しています」

唇から笑みがこぼれる。やれる。やれる。やれる。やれる。やれる。やれる。


初めは何とも思わなかった。だけど一緒に過ごすうちに、彼の言動、仕草、振る舞い、誰にでも優しくて男気があるし。顔も心もイケメン。そんな彼を見るにつれて淡い恋心を抱くようになった。叶わぬ恋だとわかってた。触れるまでもなくね。だって彼は高校から付き合って結婚した奥さんがいる。しかも子供もいるんだもん。しかも僕は彼より10歳も年上で男。初めから彼の土俵には上がることすら許されなかった。時々インスタに流れる仲睦まじい写真。隣で笑っていたかった。嫌い。嫌い。嫌い。好き。嫌い。嫌い。


どうしても会いたいって言ったら来てくれるって。

好き。好き。好き。嫌い。好き。好き。

こんな僕のために。こんな真夜中に会いにきてくれる。優しいんだよね本当に。

したい。したい。したい。殺したい。殺したい。殺したい。

全部僕のものにしたい。髪の毛から爪先まで。


もう一度スマホを見る。3時33分。そろそろ彼は来る。

エンジェルナンバー33333。アセンデッドマスター(高次元の存在)からの強力なサポートと、自己表現や創造性の開花、人生の目標達成への加速を意味し、あなたの願いが現実化する大きなチャンスが訪れているサイン。

なんだか良くわからない存在が自分の衝動は正しいと肯定してくれた。


胸が躍る。心が躍る。鼓動がだんだん早くなっていく。高揚してメガネが曇る。

早くこないかな。ポケットに手を入れる。冷たい感触。アーミーナイフを指でなぞる。

冷たい笑みがこぼれる。

早く来ないかな。

これで永遠に僕のもの。


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待っててね 田中水 @kit-syabon

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