クリスマスに起きた奇跡
HOSHI
クリスマスに起きた奇跡
肌寒いこの季節。家の近くにある商店街は夜になるときらきらと光り輝き、中央にあるとても大きいクリスマスツリーは飾り付けされて宝石のように輝いている。そしてこの輝きは景色だけではない。まわりを歩いている人々もこの景色に魅了され、目が輝いている。そしてそれは今、僕の手をぎゅっと握っている君も同じように目を輝かせている。
「綺麗ねー。私、こんなにすてきなもの見たことないわ」
あたりを隅々までみながら君はそう言った。きっと君にとってはとても新鮮なものだったのだろう。だって君はそんなに外に出かけてこなかったから。
僕はそんな君を見て本当に連れてきて良かったと心から思う。
「まだ、君に見せたいものがたくさんあるんだ。だから……これからも僕の隣にいてくれませんか?」
そう言うと、君は微笑んで答えた。
「ええ、勿論! まだあなたと一緒にいたい、だからこれからも隣にいさせてください」
僕も君も頬を赤らめながらさらに固く手を握った。これからもずっと一緒に幸せに生きていくもんだと思っていた。なのに、一年後あんなことが起きるだなんて思わなかった。
君と初めて出会ったのは中学二年生の夏だった。近所に同い年の女の子が引っ越してくると母から聞き、その女の子が君だったのだ。はじめは関わることなどないと思っていた。なんせ僕はあまり女性と関わってきたことがなかったから。だから君とも関わることはないと思っていた。だけど数日後、君は僕のクラスに仲間入りした。
僕の学校では転校生が本当に珍しかったため、君はクラスどころか学校中の注目の的となった。最初は笑顔でいろんな人と接していた君だったけれども本当はあまり注目をあびるのが好きではなかった君は助けを求めてとある日の放課後、僕の家を訪ねてきた。
「あの、突然すみません。先日同じクラスに転校してきた者なんですけど……」
不安そうな目をした君は震えている声で僕に話しかけてきた。これが僕と君がはじめて関わった瞬間だった。
「ああ、知ってます。なにか用ですか?」
「本当にすみません。あの、ちょっと助けてほしくて……。あの! 休み時間とか話しかけてもいいですか?」
「はい?」
話しかけてもいいですかという謎発言に僕は生まれて初めてここまで間抜けな声をだしたと思う。
「すみません、突然変なことを言ってしまって。あの私、最近いろんな人に声をかけてもらえて凄く嬉しいんですけどちょっと疲れちゃって。こんなに注目浴びて言うのもあれなんですけど、私注目浴びるのそんな好きじゃなくて。だからちょっと助けてほしいなって……」
正直当時の僕は人助けなんかしたことがなかった。そもそもそんな場面に遭遇することもそんなないし、遭遇したとしても見てみぬふりをしてきた。だからこれも断ろうと思った。自分なんかに人助けは向いてない。自分でなんとかすればいいじゃないかって。だけど不安そうな君の顔を見ているうちに次第に断れなくなっていった。なんでかはわからない。だけど断ったら可哀想じゃないかって、話すだけなのだから自分にもできるだろうってなんか思うようになっていた。そして自然と僕は許可を出していたのだ。僕のその回答をきいた君は嬉しそうにほほえんでありがとうと何回も伝えてくれた。
その日から僕と君はよく関わるようになった。最初は会話がなかなか弾まなくって気まずくなることが多々あった。そうなるたびに二人でどうしようってなって話の話題を変えるけどもまた同じ現象が起こる。それが毎日毎日何回も起こるからちょっと面白くって二人で笑ったこともあった。そして次第に慣れてきて会話も弾むようになっていた。それと同時に周りもあまり話しかけて来なくなり君は笑顔が増えた。友達もできてきているようだったからこれでもういいと思った。だってもう僕は君を救ったから。これで君も楽しく学校生活を遅れるようになる、もう僕と話す必要はなくなると、でもなぜかそう思うと僕は胸が苦しくなった。まだ君と話していたい、君と過ごす時間が楽しいって前まではなかった謎の感情が芽生えるようになっていた。そしてそれは君も同じだったようで僕と君の関係がなくなることはなかった。
たくさん話してたくさん笑う。今までの僕にはなかったこの日常。楽しくて仕方がなかった。
そして時が流れて高校二年生の五月。僕は君と出かける約束をした。一緒に今、流行っている映画を見に行こうと約束したのだ。僕がついたときまだ君は来ていなかった。スマホで時間を確認すると待ち合わせ時間の十分前だった。
「いつもこのくらいの時間ならもういるんだけどな。今日は時間かかっているのかもしれないな」
僕は君に到着! とメッセージを送った。先に待ち合わせ場所についたら到着を知らせるメッセージを送る、これは二人で決めたルールだった。メッセージを見返してみると僕よりも君が送った到着メッセージのほうが圧倒的に多かった。大体、君のほうが先につくからだろう。だから僕よりも遅く来るときは大体なにかあったときである。例えば忘れ物に気づいて一回家に戻ったときとかだ。
そもそも家が近いのだから一緒に行けばいいのだが、なぜか君はそれは嫌だと言うのでこうなっているのである。
なので僕は君の到着を静かに待つことにした。
あれから一時間が経過したが、君は来なかった。
「どうしたんだ? 急遽来れなくなったとか? なにかメッセージきてるかもしれない」
そう思って何度もメッセージアプリを起動させているのだが何のメッセージもなかった。
「今までこんなことなかったよな……。そもそも僕のメッセージに既読がついてないからこれも見てない。心配だから家までいってみるか」
このとき、僕は今までなかったこの状況に変な胸騒ぎがしていた。そういえば夜中、サイレンの音が聴こえた。近くでなにかあったことはわかったがどの家だったのかはわからない。だけどもしこれが関係していたら……。気づいたら僕は走り出していた。何も起きていませんようにと願いながら。
走り続けて数分後、僕は君の家につきインターホンを鳴らした。そのとき随分と憔悴しきっている君のお母さんが出てくれた。そして僕はそこでとんでもない事実を聞いた。僕がなんと言ったのかその前に君のお母さんがなんと言っていたのか僕は覚えていない。それくらい衝撃的だったのだ。
「あの子、昨日倒れちゃって……。救急車で運ばれちゃったの……。今も意識が戻らないみたいで……重症だって。詳しいことはよくわからないのだけどどうやら脳に異常が見つかったみたいなの……。いつ目を覚ますかもわからなくって……。もしかしたらこのまま目を覚まさずに……死んでしまうかもしれないって」
途切れ途切れになりながら君のお母さんは事情を説明してくれた。
その後はもうよく覚えていない。どこの病院にいるか聞いて君がいる病室に行った、これくらいしか覚えていない。まさかこんなことが起きるとは思わなかったから。
君が倒れて数カ月後の十二月二十五日。これが今である。そして僕はなぜか今、去年君と行った商店街にいる。去年のこの日。君は笑顔で隣に立っていたはずなのに。目を輝かせていたはずなのに。今も君は眠り続けている。正直、もう厳しいんじゃないかと医者に言われているらしい。だけど僕はまた君が目覚めると信じている。
「綺麗ねー。私、こんなにすてきなもの見たことないわ」
ふと、そう聞こえた気がした。一年前に君が言った言葉が一語一句思い返されていく。涙が出そうになったとき上空で何かが光った。
「お父さん! 流れ星だ!」
近くにいた女の子が空を指さして父に伝えている。お父さんのほうも流れ星をみて微笑む。
「そうだねー。とてもきれいだ。そういえば流れ星が消える前に三回願い事を言えることができたら願いが叶うっていう話をきいたことがあるなー」
「そうなの? 私、やってみる!」
そんな微笑ましい親子のやり取りをききながら僕は流れ星を見た。
流れ星……。願い事……。
僕はそのお父さんの言葉で思い出した。
もし本当に叶うのであれば何度だって願う。もう僕の願い事はこれだけだ。
心の中で僕は目を閉じながら唱える。強い気持ちを込めて流れ星に願う。
”君の病気……いや、はるかの病気が治りますように”
僕は何回も何回も流れ星に願い続けた。はるかが笑顔でいてくれさえいれば他のことはどうでもいい。またあの声を聴きたい、またあの笑顔が見たい。
その時、スマホが鳴った。どうやら誰かが電話をかけてきたらしい。なんだろうと思い、スマホを取り出す。電話をかけてきたのは……はるかのお母さんだった。
なにかあったのかと思い急いで電話に出る。すると随分と焦った口調で話し始めた。
「はるかが今、大変なの! 今すぐ病院に来てくれるかしら?」
「はい! すぐに行きます!」
僕はすぐに電話を切って全力疾走で病院に向かった。今までこんなスピード出したことなかったかもしれない。それくらいスピードが出ていた。
病院につくとはるかのお母さんとお父さんが迎えてくれてすぐに病室に案内された。
はるかの病室を開けるとそこには……
ベッドに座っているはるかがいた。目を開けて座っている。寝たきりじゃない。起きてる。目を覚ましたのだ。
はるかは僕の姿を見るなり泣きそうな顔になりずっと聞きたかったあの声で僕の名前を読んだ。
「啓太……! 元気そうで良かった……!」
僕はその声を聞いた瞬間目から涙が溢れ彼女の両親が近くにいるのにもかかわらず、はるかを強く優しく抱きしめた。
「良かった……。本当に。目を覚まして……。あの日来なかったからすごく心配して聞いたらもうこうなってて……」
「ごめんね、何も言えなくて。迷惑かけちゃってごめん……!」
「ううん。はるかが目を覚ましてくれたから大丈夫だよ。おかえり、はるか」
「うん! ただいま!」
久しぶりにきくその明るい声、そして久しぶりに見るその笑顔。僕は嬉しすぎてどうにかなりそうだった。
それからもずっと二人で話し続けた。今まで話せなかった分たくさん話す。彼女の両親は今日はクリスマスなのだから楽しい時間を過ごしなさいと言って部屋から出ていった。彼らだって話すことたくさんあっただろうに。
「そういえば、今日クリスマスだったね。ごめんね、なんかクリスマスなんにもできなかったよね」
「ううん。もうはるかが帰ってきてくれたこれが僕にとっての最高のクリスマスプレゼントだよ!」
「大げさだよ。やっぱ変わってないね、安心したよ。そういえばさっきチラって見えたんだけどここの病室からあの商店街のイルミネーションが見えるんだよね」
「そうなの?」
僕は病室のカーテンを開けてみた。するとそこには小さくではあるがさっきまで自分がいた商店街のイルミネーションが見えた。
「本当にここからでもきれいだよね。去年のまだ覚えているもん。来年は絶対行こうね!」
彼女はそう言って小指を差し出す。
「もちろん!」
僕もまた小指を差し出す。そしてふたりで指切りげんまんをした。
来年は絶対に見に行くと。
僕達はまた手を固く握りしめながら窓から見えるイルミネーションを眺めていた。
そして心の中で思う。
本当に戻ってきてくれて良かった。これはクリスマスに起きた奇跡だと。
僕達はこれからもまた幸せな日々を送っていくのだろう。
クリスマスに起きた奇跡 HOSHI @HOSHIZORA69
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