“迎えてくれるひ”“送ってくれるひ”

第1話

「あんたのその元気、分けてくれ」



夕日が沈んだばかりの、午後7時過ぎ。



気温の高さに悶え、無償にアイスが食べたいという欲望素直に、近所のコンビニへ向かった帰り道。



道中にある公園を横切っている間、ずっと鳴き続けるアブラゼミの五月蝿さに思わず呟く。





うなだれるように俯けば、黒のゆるT(無地)にこれまた黒のスキニーパンツ(当然、無地)という洒落けも何もない自分の姿が視界に入った。



あたしの職業的には“完全アウト”な手抜きコーディネート。





純粋だった幼少時代などもうとっくに過ぎ去って、がっつり現実を生きなければいけない25歳、



若者に人気の有名アパレルブランド、そこのショップ店員として働くあたしの皮肉加減は、年々酷くなってる気がする。




ゆっくりと吐き出すため息につられるように、空は静かに、闇に染まっていった。







――――――――――……




「うわあ!美味しそう!」



甲高く幼い声が真横から届いたのは、母校である中学を横切り終える間近なときだ。



小学生らしき女の子が、1メートルほどある石で出来た塀の役割を果たしているそこに、ぶらぶら足を投げ出し座っている。



そして、あたしが黙々と口に運んでいたアイスクリームを指差し、爛々と瞳を輝せた。




「アイス、食べる?」


「うん!」



食べ歩きを堂々と見せつけ、さらには冷蔵庫にストックする予定でいくつか買ったものを進めるのは教育的にどうかと思ったけれど…、



如何せん、あたしはこどもが大好きなので、甘く優しい対応をしてしまう。





「いいよ。あ、でも勝手に食べてママに怒られたりしない?」


「う~ん……だめ?」


「いや、あたしはいいんだけどね?」


「いい?」


「うん」


「じゃあ、食べる!」


「よし!食べちゃおう!黙ってたら分かんないよきっと」



アイス食べるぐらい大丈夫か、と考え、


「チョコ、バニラ、イチゴ…どれが好き?」


女の子の隣に、袋の中身を見せつつ腰かけた。




「いちご!」


「おっ!気が合うね?」



あたしのいちばん好きな味と同じそれを選んだ様に、気持ちが浮上する。



本当、こどもって可愛い。




「はい、どうぞ」


「ありがとう!」



使い捨てスプーンの封をあけ渡せば、にこにこ嬉しそうに笑った。



とても幸せそうに、ピンク色のそれをどんどん口のなかへ運んでいる。



並んで、残り僅かになっていた溶けかけのピンク色を味わうことにした。




「おいしい?」


「うん!」


「よかった。あ、あんた、この辺の子?」


「うーうーん。えっとねぇ……あそこらへん!」



足をぶらぶら揺らしながら女の子が指差したのは、遥か遠くの空。



不可解な主張に?が浮かんだのは数秒間だけで、直ぐに理解できた。





このご時世だ。



きっと、親御さんが知らない人に家を聞かれても言わないように、教育してあるんたろう。





「それはまた遠くだねえ」


「遠いよー?でもね、たくさんの人を見渡せるんだよ!」


「まじか。めっちゃ便利。」



しっかり者で賢い女の子に、こっそり感服する。





「あんた、何歳?」


「んっとねえ、10歳!」


「ここで、何してたの?」


「ママを待ってたあ」


「そっかそっか……あ、名前、聞いてもいい?」


「名前、んっとねえ、んっとねえ、」


「(あ、教えちゃ駄目だって言われてるのかも)じゃあ“イチゴ”って呼んでもいい?あんたって呼び続けるのも何だしさ」



困ったように眉を下げる女の子に、優しく首を傾けた。



小さな手でしっかり持っている“イチゴ”アイスを指で示せば、大きく頷く。




「いちご……可愛い名前だね!ありがとう!」


「いえいえ。ごめんね?個人情報ばんばん聞いちゃって……でもイチゴの対応、正しい!すごいね、100点!」


「100点?」


「うん。100点。すばらしい。」


「やったあ。いちご、ほめられた!」


「うん。今の世の中、怪しい大人は腐るほどいるからね。気を付けなよ。イチゴ、可愛いしさ」


「はーい!」



素直な返事が可笑しくて、声に出し笑ってしまった。

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