貞操逆転世界の女たちと男友達みたいにツルんでたらもれなく全員完落ちしていた件

AteRa

プロローグ

 貞操逆転世界に転生した。


 貞操逆転世界とは、男女比のバランスが主に女性側に偏ることで男性の価値が必然的に上がり、女性側が強く男性を求めるようになる世界のことだ。それによって、女性側が男性側を襲ったりストーカーをしたりするなど、女性と男性の貞操観念が現代日本と真逆になることから、貞操逆転世界だなんて呼ばれているわけだった。


 俺はそんな貞操逆転世界の少年に転生した。つまり女性から強く求められたり襲われたりするんじゃないか……転生直後はそんな風に思っていたわけだが……。


 貞操逆転世界とは言えここも天下の法治国家日本。治安はバッチリと保たれており、時折強姦やらストーカーやらがニュースになったりもするが、一般人が高頻度でそんな場面に出くわすなんてことはまあ早々ないことだった。いくら女性が性的に飢えていて男性とあんなことやこんなことがしたいと強く願っていても、自分の人生全てを賭けて犯罪に走ることがまあしょっちゅうあって堪るかという話なわけだ。


 と言うわけで、俺はこの貞操逆転世界で平々凡々な人生を十八年ほど歩み、なんてことない男子大学生となっていた。今まで女性から性的な目で見られたり強引に性的に迫られることもなかったので、案外この世界の女性も異性に対してそこまで積極的ではなく、そもそもあまり興味も無いのかもしれない。最近はそんな風に思い始めていた。


 あ、そうそう。ちなみにこの世界の俺以外の男性は基本的に上品でお高くとまっていることが多い。男女比が千倍くらい違うわけだから男性として生まれた時点で上流階級の仲間入りを果たすわけで、そこでお上品なお教育を施され蝶よ花よと大切に育てられ無事世間知らずのお坊ちゃまとして成長してしまう。まあ女性側としては別にそれでいいというかそもそも男性はそういうものだと思っているので、世間知らずのお坊ちゃまだったとしても彼女たちの需要は満たせる。


 だが、前世を持ち前世で散々男友達と馬鹿ばっかやってきた俺からすると、この世界の男たちは真面目で堅物で上品すぎて友達甲斐がないというか、一緒にいて感性が合わず全く楽しめないのだった。上半身裸で川に飛び込んだり泥だらけになるまで外で遊んだり一緒の家に集まって朝までゲームしたり、そんな同性ならではの遊びをこの世界の男たちとは出来ていなかった。


 彼らは口を開けばおピアノがとかお勉強がとかおバレエがとか、そんな話で盛り上がり、しかもそこから間髪入れずに「ついこの間イギリスの大使館に招待されてあーだこーだ」とか「フランスのお芸術祭にお呼ばれしてあーだこーだ」とか、本当につまらない人脈マウント合戦が始まる。一緒にいて何が楽しいんだって話だ。


 それに対してこの世界の女性たちは前世での男性に近く、金がないのに原チャリで飛び出し遠くまで旅をしてみたり、仲間内の一人のボロアパートに集まって朝まで駄弁りながらゲームをしたり、喧嘩してみたり仲直りしてみたり走り回ったり笑い合ったりと、とても楽しそうな生活を送っていた。


 高校時代までは我慢した。外面を気にする母の意向で、現在さらに数少なくなっていっている男性たちとの会合に出席しつまらない話を愛想笑いをして聞き流し、世界中あちこち飛び回り海外のお偉いさん方に媚びを売ったりしながら過ごしていた。学校で女子たちが楽しそうに昨日の夜の宴の話をしているのを指をくわえて眺めていた。


 が! とうとう東京の大学に入学することになり、俺は実家の田舎を離れて東京で一人暮らしをすることになった! これにより俺は母親からの呪縛を解かれ、クッソつまらない男たちのマウント合戦ともオサラバ出来、いつも異性がいないながらも心底楽しそうにしていた女性たちの輪に入り込むことが出来る!


 長かった! ここまで本当に長かった!

 でも! ようやく俺は他人と馬鹿みたいな生活を送ることが出来るようになったのだ!


 早く友達作りたい! 一緒に朝までゲームで盛り上がったり、明け方に眠い中ラーメン屋に行ってみたり、ベランダで煙草を吸いながらそんな自分たちの雰囲気に酔ってチルしてみたり、長期休暇でみんなで一緒に貧乏旅行に行ってみたり、くだらない下ネタやら悪口やらでとことん盛り上がってみたり! あー、想像するだけで今からすでに大学生活が楽しみになってきた!


 まあ女性だけのグループに男の俺が入るのは大丈夫なのかという懸念は少しだけあるが、俺は男女の友情は成立すると思ってるし、恋愛的な雰囲気さえ出さなければ惚れられることはないだろうと思っていた。俺が誰にも媚びを売らずに常に中立の立場を保っていれば、おそらくみんなもそれに気がついて距離感を保ってくれるだろう。


 そうして東京に引っ越してきてから一週間後。俺はつつがなく大学の入学式を終え、早速女子三人グループの四人目として友達作りに成功するのだった。

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