一円玉を選べない。「選ぶ」という行為に潜む、切り捨てた半身への罪悪感
- ★★★ Excellent!!!
「選ぶということは、こちらではない方を捨てること」。この命題が、スーパーの野菜選びから手すりの選択に至るまで、静かに、けれど鋭く主人公を追い詰めている描写が秀逸です。
特に落とした一円玉のシーンには唸らされました。区別のつかない二枚を「選べない」から両方渡すという行動。あれは、かつて二つの命のどちらかしか残らなかった運命に対し、彼女なりの「どちらも切り捨てたくない」という切実な祈りであり、ささやかな抵抗のように感じられて涙が出そうでした。
写真の中の母が「余白」を見つめている描写も、不在の存在を強烈に意識させて印象的でした。