土曜日
朝食を摂るため食堂へ向かうと、拍手で迎えられた。
どうやら最低限しか書いてない文章は無事に学内LAN専用の記事として配信されたらしい。
もう少し細かく書いて欲しかったなんて声がひそひそと聞こえたが、割れんばかりの拍手がその声をかき消した。
部長に話が聞きたいとメールを送り、学生会執行部室で落ちあう。
「迷ってたみたいだけど、書けたじゃん。やったな」
笑顔の部長とは対照的に僕の心は晴れてなかった。
「これから先の記事の書き方で迷っています。それに、歓声が遠くで聞こえたタイミングが僕にはまったくわかりませんでした。AIに相談しました。彼らがなんのために実験をしてるかわからなさすぎます」
「おいおい、待ってくれよ。今朝、食堂で拍手で迎えられただろ。あれ、牧野が認識してない学生会の仲間だぞ。牧野を心配して行動を変えてくれるのはAIじゃなくて人間なんだ。しっかりしてくれよ」
「……すみません。でも、擬似的な文章と言われたのが僕には引っかかります!」
一人しか書けない重圧と責任がのしかかっているのに、擬似だと言われてしまうと自信のなさが顔に出てきてしまう。
「そりゃあ、だって牧野がやっていることは公式の学外向け冊子じゃない、航空宇宙同好会の一員としての記録じゃない、新しい言語で作った作品でもない、報告書でもない、どれでもない」
そう言われてしまえば確かだった。
部長の顔を見れなくて、俯いてしまったせいで床が近く見えた。
「だから、牧野が書けなくても気にしなくていいんだ」
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