寮室

 部長から、一番の特ダネ持っているから寮室で書いてくれと頼まれていた。

 飛鳥井あすかいには後日のインタビューを約束していた。

 正直、空中で卵が割れて中からパラシュート付きのジュース缶が飛び出るマジックショーを見せられた気分だ。

 記事として説明できる人間は僕しかいない。

 かといって、技術的な説明を部長に求めても、それを理解できる僕でもない。

 撮影した瞬間の物体に歓声は上がっていなかった。

 部長へ一文だけメールを送信した。

 すぐ返信が戻ってくる。

『学内LAN限定の擬似的な文章なんだから気にしないで好きなように書け!』

 それでも写真を載せれば、キャッシュが残ることが想定される。

 学外向けにスクリーンショット画像を残したところで、ソーシャルメディアガイドラインからの逸脱として停学、退学処分を喰らうことだってある。

 文章だけなら心配は要らなかった。

 ただ、写真となるとどれを使ったらいいのかわからなかった。

 飛鳥井からも、インタビュー時に集合写真を撮影して欲しい、現場に来れなかった一年生も含めて、と約束している。

 考えあぐねているうちに夕食の時間がきて、一階の食堂まで降りていった。

「牧野、記事はまだか?」

「考え中」

「すまんすまん、夜中に書いた記事は朝まで誰にも読まれないんだぜ」

 不意に今まで感じたことのない視線を背中に降りそそがれている。


 午前零時をまわってやっと初稿を学生会執行部のサーバへと送信する。

 わからないなりに少しずつ書くしか無いと思ったからだ。

 一時を過ぎて、ノートパソコンの寮内LANが落ちる。

 仕様だ。

 執筆の手を止めて、ベッドへ潜る。

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