皐月と優の帰り道

「あれ、優ちゃん!」

部活帰り、皐月は校門の前で立っている幼馴染・優を見つけました。

優は今腕を骨折していて白い包帯を巻いているので、最近目の悪くなってきた皐月でもすぐに見分けることができました。

二人は明日から冬休みです。

今までためてきたロッカーの教科書をカバンに詰め込んでいます。

今にもはちきれそうです。

肩が悲鳴をあげています。

今日は23日だというのにもうサンタクロースが来てしまったようです。

空にはまだ太陽が昇っています。

三者面談があるので、いつもより帰りが早いからです。

まだ透き通った空気を突き進みながら紫外線が少量ながらも二人の肌を焼き付けています。

今まで「寒い寒い」と叫んでいた生徒たちが汗をかきながら走っています。

優が皐月のもとに駆け寄ってきました。

優の荷物は皐月よりも軽そうです。

優が皐月に聞きました。

「もしかして、計画的に持って帰らなかったの?」

皐月は計画的にもってかえっていた、と言いました。

それならなぜそんなに多くのものを抱えているのでしょう。

皐月の両手がカバンに入らなかった教科書でふさがっています。

皐月は言いました。

「先生がロッカーの中を空にしなさいって。いるもんだけ持って帰るんだとおもっててさ。もう大変なんじゃけど...。」

優は驚きました。

優のクラスの先生はそのようなことをまったく言わなかったからです。

皐月はそれを聞いて、先生を恨めしく思いました。

優は先ほど三者面談をしたそうです。

終わったので帰ろうとしていたときにちょうど皐月が来たので、二人は一緒に帰ることにしました。

二人は電車とバスで通学しています。

学校から駅まで15分ほどなので、二人は他愛ない会話をかわしながら歩きました。

まず出たのは成績の話です。

二人はとても賢いので、成績の話は苦になりませんでした。

「成績どうだった?」

まず優が話題を持ちかけました。

皐月は前に見せてもらった自分の成績を思い出しながら言いました。

「技術家庭科が4で、保体と理科も4。後は5だったなぁ。」

優は恐れ入りましたという顔になりました。

といっても優の成績も皐月とそれほど変わりません。

「私は英語と保体とあともう一個4で後は5だったよ。」

皐月はさすがだ...と感嘆の声をだしました。

それと同時に驚きました。

「英語4だったんだね。珍しい。」

優は苦笑いをしながら答えました。

「英語では数えきれないほどの内職をしたからね。お陰で主体的に取り組む態度がBだよ。」

今度は皐月が苦笑いする番です。

二人はアハハ...と笑いあいました。

時間の経過は早いものです。

いつの間にか駅についていました。

二人は何とか電車に間に合いました。

電車がくると、4人席を二人で独占しました。

荷物の量が冗談ではなく、本当に2人分あるからです。

二人は電車の中だというのに家のようなリラックス感です。

“You can make yourself at home”

最近習ったこの文がどれだけうれしい言葉か身に沁みます。

しかし、二人の最寄り駅は次です。

電車に乗る時間はわずか5分しかありません。

せっかくリラックスしていたのにまたいそいそと立ち上がりました。

プルプル震えている足を何とか働かせて階段を上ります。

踏ん張りが効かなくなることもありましたが、何とかバス停まで移動することができました。

皐月はJRバスか市街地循環バス、優は芸陽バスか市街地循環バスで家に帰ることができます。

市街地循環バスは安いし、一緒に帰ることが可能なので、二人は市街地循環バスのバス停によりました。

バスは15分おきに来ます。

二人が着くと同時にバスが到着しました。

二人はバスの一番後ろの4人席をまたもや二人で独占します。

もしかして、二人のことを思いやりの心のない自己中心的なJCだと思っていますか?

確かに今までの行動を見たらそう思うかもしれません。

しかし、彼女たちは周りを見る力に長けています。

席が埋まり、乗ってくる人がか弱い部類に入る人だった場合、二人はどんな時でも席を譲るのです。

皆さんも二人を見習ってみてはいかがでしょう。

と、そういう話は置いておいて、今回は席ががら空きだったので二人は席を立たなくて済みました。

バスが出発すると皐月はスマートフォンを取り出しました。

学校で仲の良い友達がスマホを買ったので、LINEを交換することになったのです。

その子が今朝持ってきたQRコードを読み取ってLINEの「友達」に追加しました。

さらに、皐月は同じクラスの仲良し3人組のグループラインを作成しました。

名前は「よもぎ」です。

これは3人の苗字の頭文字をとったものです。

Yo Mo Ogi

ここから流れをよくするためにOを一つ減らし、よもぎになりました。

皐月はこれを優に話しました。

優は「センスの塊じゃん」と皐月を褒めました。

それが終わると、話は恋バナに変わっていきました。

メインは同じ小学校だったこうちゃんについてです。

皐月は密かにこうちゃんが好きです。

しかし、付き合いたいとかそういうのはなくただ単に好きなのです。

皐月はこれが恋なのか憧れなのか尊いという気持ちなのかもさっぱり見分けがつきません。

“しのぶれど”

よく小倉百人一首で出てくるこの言葉。

恋を隠すという意味があるそうなので、一見今の皐月を表しているように見えます。

が、皐月は恋なのかもわかっていないので、皐月にぴったりと当てはまる言葉は今の皐月の頭脳では導き出せませんでした。

今皐月は恋愛小説を読んで勉強中です。

話を戻しますと、こうちゃんが今結構モテているという話題になりました。

「なんでこうちゃんがモテるんだろ?なんかモテる要素あったっけ?」

優が言いました。

かなり言われています。

皐月もついつい確かにと同感してしまいました。

そこで皐月はこうちゃんのクラスメイトとして、こうちゃんをフォローすることにしました。

「ん-、要素かぁ。...野球部ってことかな?」

「いや、野球部は坊主頭に馬鹿っていう偏見があるから、ないと思う。」

これまた酷いいわれようです。

しかし、その偏見を逆手にとって皐月は言いました。

「賢いってことじゃない?」

こうちゃんは数学なら二人と張り合えるほど賢いです。

こうちゃんのことが好きな女子によると、数学で会った時に一目惚れ、だそう。

優はむむぅとうなりました。

さつきの考えに同感したのでしょう。

今度は優が自分の考えを言いました。

「こうちゃんってそれなりに顔整っているからね。目、きれいだし。」

皐月はハッとしました。

皐月がこうちゃんのことを気になり始めたのは2年前のことです。

一時的に別の学校に行っていてグループに入れなかったし、友達がみんな別の組に行ってしまったのもあって皐月は少しスタートを出遅れていました。

そんな時に声をかけてくれたのはこうちゃんです。

「ドッヂボールせん?」

「鬼ご(鬼ごっこ)せん?」

そうやって休み時間に皐月を誘ってくれました。

頭の良さや性格がとても似ていたので、二人は授業でも勝負をしたり協力したりしていました。

そんなこうちゃんと皐月が話す時、こうちゃんが絶対にやっている事があります。

それは相手の目を見ることです。

皐月は優の言葉を聞いて、納得しました。

私はきっとこうちゃんの目に魅了されていたのだろう。

あの澄んだ美しい黒い目を皐月ははっきりと思い出すことができました。

皐月の胸の中にどんどん温かいものが広がっていきます。

皐月は優に言いました。

「うん。確かに。目、きれいだよね。」

そういったときにバスが皐月の降りる停車駅に止まりました。

皐月は笑顔で、優に挨拶をしてバスをおりました。

「バイバイ。」

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