できることなら卵でとじて食べちゃいたい

橙こあら

できることなら卵でとじて食べちゃいたい

 今日は嫌な日だった。

 何もかも、うまくいかなくて泣きたくなった。

 とても、とても、つらかった。

 それでも……。


「お腹、空いた……」


 ごはんは食べたい。

 とりあえず涙を拭いてキッチンへと向かう。

 何、食べよう。

 冷蔵庫を開いて、何があるかをチェックした。


「……」


 あれにしよう。

 今日の夕食に作るものは、すぐに決まった。不思議なもので、なぜかインスタント食品を選ぶ気にはならなかった。こんなときに作る余裕なんてないはずなのでは……と自分で自分のことを変だ、と思ってしまった。さっきまでは自分がかわいくて泣いていた、というのに。

 冷蔵庫から取り出したのは、めんつゆと揚げ玉そして卵。その結果、作ったものは……。


「……いただきます……」


 揚げとじ丼……というものだ。めんつゆを水で薄めて鍋に入れる。そこに揚げ玉を追加して少し煮てから、くるりと溶き卵でそれらをとじる。そして固まった温かな卵とじを、丼に入った白飯に乗せる。給料日前に作ることが多い丼物。それでも、


「……おいしい……」


 あったかくて、おいしくて……安くても満足感のある丼物なのだ。

 ああ、これがあるからインスタント食品にしようだなんて思わなかったのだろう。

 つらいことや悲しいことも、卵でとじて食べられたら良いのに。お腹の中で、あっという間に消えてしまえば良いのに。ほかほかの揚げとじ丼を食べながら、ふと思った。でも涙は決し入れたくない。塩っ辛くなるだろう。せっかく味の濃いめんつゆの味を、水を使って調えたというのに。そんなことはしてはいけない。


「……ごちそうさまでした……」


 苦しかった出来事は、自分の中で消えていない。しっかり残っている。

 でも、ちょっぴり元気は出た。

 ごはんって、すごい。


「……よし」


 ごはんを食べ終えて、少し休んでから洗い物を始めた。頑張ろう、と思いながら洗った食器や鍋はピカピカだった。

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