魔王育成学校

豆すけ

学校

 暗いどこかの広場、激しい戦闘の末ついたたくさんの傷、そして剣を構える勇者

「トドメだ、魔王。お前を倒して、世界に光を」

 まっすぐ俺に振り下ろされる剣

「俺は、世界を平和に導く為に……」




「また、変な夢か……」

 魔王になった俺−−アレンが知らない人と戦い、激闘のすえ殺される夢。一度や二度なら未だいいが、ほぼ毎回見る変な夢に嫌気がさしてくる。

 顔を洗い、制服に着替え学校へ向かう。


 魔王立育成学校


 それは将来の魔王となる人材の育成を主に行なっている。

 魔王とは世界を平和に保つための重要な役割である。

 一つの世界に魔王は一人存在し、その世界を管理するのが仕事である。

 育成学校では、帝王学から始まり、経済学や戦闘訓練など厳しい授業を行う事で、立派な魔王として勤めを果たせる様に日々学んでいる。

 卒業すると新たな世界へ魔王が派遣される仕組みになっている。




「アレンは、どんな所に行きたい?」

 学校に着き授業の準備をしていると、前の席の女の子に話しかけられた。

「なるべく平和でのんびりした所がいいなぁ」

「アリスは?」

 ショートヘアーに日焼けでうっすら焼けた肌、いかにも運動神経抜群で実際に体育の成績の良い女の子アリス。

「あたしは、体力には自信あるから、色んな人を助けられる様な魔王になりたいな!」



「はい、みんなおはよう!」

 担任が、知らない生徒と入ってくる。転校生なんて言ってなかったのに。

「転校生を紹介します!みんな仲良くしてね!」

「ユウキシノノメです。よろしくお願いします」



 転校生の紹介も終わり、授業が始まる。

 休み時間、アリスに夢の事を相談してみる事にした。

「最近変な夢見るんだよね……。何か知らない場所で戦ってんだけど、魔王平和の為に殺されろって、やられんの……」

「なにそれ、疲れてるんじゃないの〜」

「そうなのかねぇ」

 話してると転校生のユウキが話しかけてきた。

「その夢について詳しく教えてもらっていい?」

 転校生に話しかけられ、びっくりしつつ変わった夢だよ、と話す事にした。

 笑うかと思ったが、ユウキは真剣な表情で聞いている。


「変な夢だろ?」

「……ん?そ、そうだね。ちょっと、また後で話したい事があるんだけど時間いい?」

 俺とアリスは顔を見合わせ首を捻る。


「うん、いいよ。なら放課後図書室でいい?」

「ありがとう、また後で」

 何だったんだと二人でまた首をかしげた。





 放課後図書室に向かうと、扉の前にユウキが居た。

 椅子に座り改めて夢の内容を話した。

 再びユウキは真剣に聞いてくれる。


「僕には四つ上の兄が。別の学校に行ってて魔王になったんだ」

 ユウキの話によると、お兄さんは魔王になってからも毎月手紙を送ってくれたらしい。

 しかし一年前のある日、手紙と何も書かれていない紙が送られてきて以来、届かなくなったらしい。

 手紙には近況報告やユウキを心配する内容が書かれていた。

 白紙は最初はただの間違いかと思ったが、魔力を込めると文字が浮かび上がってきた。

 その内容は−−



ユウキへ

この手紙を読む頃には俺はもうこの世にはいないだろう。

魔王は平和の象徴ではなかった。

単なる世界の生贄だったんだ。

俺たちは生贄として育てるための卵だったようだ。まだお前は助かる。いいか、絶対に魔王にはなるな。頼む俺の様にはならないでくれ。




 手紙を読んだ俺は、言葉が出なかった。

 書かれている事は本当なのか、もし事実なら大人に相談した方がいいのか。もしくはこの事は先生たちは知っているのか。

 俺は書かれた内容に血の気が引いた。


「これってどういうこと?先生たちは知ってるの?」

「わかんないけど、少なくとも校長とかは知ってるでしょ、学校のトップだもん」

「だよね。だけどこれって本当のこと?信じられないんだけど……」

 確かに急にこんな話されても信じる事はできない。


「確かに信じられないだろうけど、手紙が来なくなって、この紙が来たのは本当だよ」



「興味深い話だね!」

 突然後ろから話しかけられた。

 声の方を見ると知らない生徒がいる。ネクタイの、色を見る限りどうやら上級生だ。

 聞かれるとまずいと思い、その場を後にしようとするが、通路を塞がれてしまう。


「まぁ、待ってよ。その話なんだけど、うちのボスにも話して欲しいんだよ」

 そして腕の腕章を見せてきた。

「せ、生徒会……」


 生徒会室に連れて行かれ、中に入ると一人黙々と事務仕事をする人が居る。

「会長、ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど!」

 チラリとこちらを見て、また仕事に戻る。

「無駄口はいいから、早く仕事に戻れ」

「まぁまぁ、話だけでも聞いてよ。あの事についてだから」



 あの事、その言葉を聞き、会長と呼ばれる人物はペンを置いた。

「君たちは誰だい?」



「あの、い、一年のアレンです」

「同じ一年のユウキです」


 生徒会長はこちらを見たまま黙っている。

「さっきの話しを会長にもしてあげて!」

「分かりました……」



そして俺の夢の事、ユウキのお兄さんの事全て話すと、生徒会長は黙って目を閉じる。




「これから話す事は誰にも言わないでもらいたい。友達にも、ましてや先生達には絶対に秘密にして貰いたい。いいかい?」

 俺たちは黙って頷いた。




 そして生徒会長から告げられたのは、信じたくない話しだった。

 それは、この学校は魔王を育成する学校ではあるが、その目的は平和ではなく、この世の均衡を保つための、言わば生贄という事らしい。

 魔王と対をなす勇者というものが存在する。

 しかし勇者は存在するだけで、世界にダメージを与えてしまうらしい。

 勇者の力を消耗させるためには、戦って勇者の力をなくすか、同士討ちで二人とも死ぬかのどちらかという事らしい。






「何だよそれ、俺たちは死ぬ為に教育されてるって事かよ!」

「それは先生達は知っているんですか?」


 生徒会の二人は目を合わせると困った様に笑う。

「あぁ、知っている。むしろこのシステムを作ったのは校長だよ」

 信じられない事実に俺たちは固まってしまった。



「だが、僕達もこの事を知ってただ黙って死ぬと思うかい?」

 生徒会長にじっと見つめられる。その目には、まだ諦めないとばかりの力強さを感じる。

「歴代の生徒会長はこの事実を知らされているんだ、ただ……この事を公表しても、誰にも信じて貰えないかもしれないし、一歩間違えれば世界が終わるかも知れないし。だから僕達生徒会は少しでも争おうと、力を溜めてきたんだ」



 この腐った世界を壊す為に、と拳が震える。



「だけど僕達はもうすぐ、卒業してしまう。そして世界の礎として死んでしまうだろう。だが君たちにはまだ時間がある。僕達の全てを教えるから、頼むこのシステムを壊す手伝いをして欲しい」

 生徒会の二人は頭を下げた。



「いきなり言われても、まだ信じられないです。世界の生贄とか学校が関係してるとか。それに何で僕達なんですか!」


「それはこの話を少しでも知っていたからさ。知ってからだとまず遅い。僕達がそうだった……。だから知っている分少しでも早く対策を立てられるからね」

 生徒会長は真剣に答えてくれる。

 俺にはまだよく分からない、今までのことを考えているとユウキが前に出た。


「僕は協力します。絶対に兄の仇をとります」

「俺は……、少し時間をください」

「もちろん、すぐに決めなくていいよ」



 その夜生徒会室での話が何度も頭で繰り返され、なかなか眠る事ができなかった。



 ベッドから起きて顔を洗うが、全く眠気が取れない。

 学校に向かっているとアリスにあった。

「昨日は何の話だったの?」

「何でもないよ、不思議な話だから気になったらしいよ」

「ほんとに?まぁ何でもいいけどー」

 アリスにこれ以上突っ込まれたくないから話題を変える事にした。

「それよりももうすぐテストだぞ、大丈夫か?」

「うっ……そうだよねぇ、頭良くないと立派な魔王になれないもんね」

 立派な魔王、その言葉に全身が強張る。

「アレン大丈夫?調子悪いの?」

「何でもないよ」

 俺はそう誤魔化すしかできなかった。





放課後、生徒会室に向かいノックして中に入ると、昨日と同じ様に仕事をする会長がいた。

「やあ、アレン君。答えは出たかい?」


「はい、俺も手伝わせてください」

 

「本当にいいんだね」

 生徒会長は続きを促す様に黙る。


「俺も笑顔でいて欲しい人が居るので」

 脳裏にアリスの明るい笑顔が浮かぶ。



「わかった、協力ありがとう。それでは生徒会改めようこそ、脱魔王の卵へ」



 こうして俺とユウキは生徒会でこれまでの歴史、勇者と呼ばれる存在などについて学んでいった。



 



 時は過ぎ、三月卒業式

「アレン君、ユウキ君これからは君達に託します。僕達は僕達でできる限りの事をしてみます。勇者を倒して生き延びてみせますよ」

「ありがとうございました。俺たちの代でこの学校を変えてみせます。先輩達も頑張って下さい」

 俺とユウキは会長と握手をしてお別れするのだった。



 俺たちが卒業するまであと二年、アリスの笑顔や学校の友達、何より自分達が死なない為にもこの理不尽な世界をぶっ壊す。

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