それは、世界で一番美しい死体だった。

 梯子を駆け下りた僕が見たものは、コンクリートの上に咲いた、赤い花だった。

 リリコは仰向けに倒れていた。

 手足はありえない方向に折れ曲がっていたけれど、不思議と痛みや苦悶の表情はなかった。彼女はただ、どこまでも広がる空を見つめたまま、微動だにしていなかった。

 僕は震える足で彼女に近づいた。

 血が広がっていく。スカートの白と、血の赤。そして夕暮れの紫。

 そのコントラストは、不謹慎なほどに絵画的だった。

 彼女はもう息をしていなかった。

 でも、その死に顔は、今まで僕が見てきたどのリリコよりも、静かで、満ち足りていて、透明だった。

 彼女が求めていた「青春」の完成形が、ここにあった。

「……ずるいよ、リリコ」

 僕は涙を流しながら、もう一度だけカメラを構えた。

 これを撮らなければならない。それが共犯者である僕の、最後の義務だと思った。

 ファインダーの中の彼女は、もう二度と動かない。永遠に年を取らない。

 彼女は自らの命を使って、最高傑作を作り上げたのだ。

 カシャリ。

 静寂の中に、シャッター音が吸い込まれていく。

 そこには、世界で一番悲しくて、世界で一番美しい、エモい死体があった。

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エモいしたい。――君を殺した、世界で一番美しい青春ごっこ @KFGYN

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