エモいしたい。――君を殺した、世界で一番美しい青春ごっこ

@KFGYN

「エモいしたい」と、炭酸の泡みたいに彼女は言った。

「ねえ、蓮(レン)。エモいしたい」

 その言葉は、まるでソーダ水の中で弾ける泡のように、唐突に僕の耳元で鳴った。

 放課後の教室。西日が射し込んで、空気中に舞う埃が金色の粒子になって見える時間帯。窓際の席に座るリリコは、逆光の中で輪郭をあいまいに溶かしながら、僕の方を振り返っていた。

 リリコは「エモい」という言葉を、まるで特別な魔法の呪文か何かのように使う。

 それは世間で流行っているような、レトロな写真や感傷的な風景のことだけを指しているわけじゃない。彼女にとっての「エモい」は、心臓を直接爪で弾かれるような、痛みを伴う一瞬の輝きのことだった。

「エモいって、具体的に何をするの」

 僕は読みかけのペーパーバックを閉じて訊ねる。

「青春ごっこよ」

 彼女は悪戯っぽく笑い、細い指で窓の外を指差した。

「私たちが死ぬまでの時間を、宝石みたいに結晶化させるの。永遠に残る傷跡みたいな思い出を作るの」

 僕はため息をつきながらも、ポケットの中にある古いフィルムカメラを握りしめた。僕はいつだって、彼女の共犯者だ。

 僕たちは十六歳。大人になるには幼すぎて、子供でいるには世界を知りすぎていた。だから僕たちは、この中途半端な自分たちを殺すために、過激なごっこ遊びを始めたんだ。

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