シャーペン

 死にたい。

 まだ瞼も開かない内にそう思った。でもさ、大抵別にホントに死にたいって考えてる訳じゃないじゃん。誰かに対して殺したいとか、死ねとか言うのもおんなじでさ。それって多分、自分とか相手に対して一口で言える悪口が思いつかなかった時に、ただただ当てはまるだけなんだと思うんだ。酷い話だよね。

 目が覚める。

 でもよく覚えておいて欲しいことが有るんだよ。簡単に当てはめたその言葉で傷つく人もたくさん居るってことをさ。友達同士のつまんない会話ならまだしもね。メンタル弱い人とか、まじでクリティカルヒットだからね?あと、ついでにもう一つ。本気でそう思ってる人も居るってこと。

 体を起こす。

 いやしかし、今日はいい天気だ。空は青いし、太陽も燦々と輝いてる。雲一つない。普段はカーテン閉めて真っ暗にしてるけど、まぁこんな日だしね。折角だから、ちょいと日光浴といこう。太陽の光浴びるのも随分と久しぶりな気がするな。

 ベッドから体を下ろす。

 あぁ、久しぶりに見る光を浴びる部屋。ものすごく汚ねぇ。ペットボトルはそこら中に散らばってるし、ゴミ袋は積み上がってる。なんならハエまでたかってる始末。いやはや、足の踏みどころも無いここを清掃する業者さんは大変だねぇ。いやー、最初は掃除しなくちゃなーって思ってたよ?ぼんやりとだけどね。

 玄関を目指す。

 そいえば、この部屋借りて何年になるのかな。大分経つ気がする。まぁ、もしかしたらそんなに経って無いかもしれないけどね。いやなんせ、部屋の中にずっと居るって言うのは、時間の感覚がなくなるもんなんだよ。時計は見ないし、パソコン開いても日付は見るの億劫になるし。そんなことも怖くなっちゃうなんて、引きこもりって言うのは弱っちいもんだよね。ホント。

 扉を開く。

 まぁ、これからは日付を見る必要もなくなる。いや、分からないよ?これから行く先っていうのは、もしかしたら時計とカレンダーだらけの怪奇空間かもしれないし。でもそう思うと、行くのもちょっと怖いなぁ。時間が過ぎる感覚ってかなり恐ろしいんだよ。時計もカレンダーも見てないのに過ぎてるっていう感覚だけは有るんだ。しかも常に。それなのに、ずーとカレンダーと時計とにらめっこしないといけないって。地獄かなにかかな。

 外に出る。

 おお、寒。いやはや、外は寒いねぇ。いつもいつも快適空間に居る身としてはとても耐えがたいよ。ま、コンビニ行くために外には出てるんだけどね。すぐ近くにコンビニ有るっていうのはなかなか便利なもんだよ。あ、そういえばジャンパー着るの忘れた。取りに行くのも面倒くさいし、いいや。

 廊下を進む。

 そう言えば外は随分と騒がしいね。人の喧騒とか、車の走る音とか。それに、信号機や、飛行機の飛ぶ音まで。昼間ってこんなにうるさかったんだ。正直気にしたこともなかったね。だって気にする必要もないし。気にしたところで何か変わるって訳でもなかったろうしね。

 階段を登る。

 でもどうなんだろう。あの時、もっと頑張ってれば今こんな風に惨めな生活送ることも無かったのかもしれないね。いやーでも頑張るって疲れるんだよなぁ、だって自分で行動して自分で判断しなくちゃいけないんでしょ?どちらにしろ、俺には無理な話だわな。

 戸を開ける。

 へぇ、ここが屋上か。初めて来るね。空は近いし、空気はうまい気がするし、見晴らしも良い。人生最初で最後の屋上だけど、意外と悪い所じゃないね。最後の場所がここって言うのも、意外と乙なもんだな。あ、素足のまま来ちゃった。お決まりのやつが出来ないって言うのは悲しいもんだ。

 フェンスを登る。

 懐かしいな。外を見る度に、木に登って周りを見渡したいなんて思ったけ。でも、そんな願いも結局は叶わなかったな。勉強勉強ってうるさいんだから、親ってのは。はぁ。あれを親と認めないといけない現実っていうのは、ホントにゴミみたいだよね。ま、今更か。

 見下ろす。

 いやー、高い高い。見下ろすと何でも見えるね。毎日働く社畜共も、隊列なして並ぶ車も。みーんな誰かさんが作ったルール守って人生縛って、ホント馬鹿みたいだ。みーんな馬鹿ばっかりだ。下向いて自分の事だけ考えてまるで周りを見てない。

 手を離す。

 みんな、みんな卑怯者だらけだ。誰も助けてくれない。誰も認めてくれない。誰も見てくれない。なんで?なんでみんな、そんなに自分の事ばっかり考えてるの?ちょっとは俺のことも見てくれたっていいじゃん。俺のこと考えてよ。俺のために何かしてよ。怒鳴らないでよ。そんな目で見ないでよ。面倒くさがらないでよ。

 身を委ねる。

 本当に馬鹿みたいだ。こんな場所で生きることも、生きてきたことも。ゴミだ。クソだ。何よりも汚らしくておぞましくて馬鹿みたいだ。あぁ、こんな世界からおさらばできることが清々しくてたまらない。さようなら馬鹿な人類。さようなら救いようがない世界。さようなら惨めな自分。さようなら、さようなら!!さようなら!!!

さような

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