妖精族の元女王は科学者の卵になる ~夢みる妖精とゴーレムのみる夢【オムニバス短編】~

そうじ職人

第1話 科学者の卵

 あなたは科学のことって、どのくらい知ってるのかしら?


 例えば『火』について考えてみて?

 基本的に火魔法なら、火の精霊を称える詠唱と魔力の循環で『火のエーテル元素』を集めれば火なんか簡単に起こせるのよ。

 それくらいは知ってるわよね。


 だけどあの人は、そんな単純な『火』についてすら魔法も火の精霊も関係なしで生み出しちゃうのよ。

 あの人にとっては、燃える物と凄っごく高い温度とニチャンカ……じゃなくて酸素が有れば『火』が生まれることを科学的に証明しちゃったのよ。


 これって、本当のことだから特別に教えてあげるわ!



 それからは、あの人に付いて回って色々な科学について教えて貰ったわ。

 先ずは最初に目にした白馬ならぬ、白銀色した金属製ののことからね。

 あの人は照れ臭そうに頭を掻きながら、こう言ったわ。


「あれはジェットスクーターって言うんだ。これも本当は科学的に『火』を起こす原理でも作れるはずなんだけど、この世界で確立し始めていた魔道具の方が簡単にしかもコンパクトに作れるから、魔道具を動力源にしてるんだ。この世界の『魔晶石』がそのエネルギー源になってるけど、コイツが結構貴重な石らしくて王国も大量には渡してくれないんだ」

 あの人は何やら悔しそうな表情をしている。


(そうよね。勝手な都合で異世界から召還されてるのに、価値のあるものはケチって十分に与えて貰ってないんだもの。何だかとっても気の毒だわ)


「いいわ! じゃあ交換条件でどう? あなたはアタイに科学の知識を教える。その代わりにアタイはあなたに必要な量の『魔晶石』をあげる。これなら公平な取引にならないかしら?」


 あの人は、飛びっきりの笑顔を見せて取引は成立する。


(人間にとっては『魔晶石』って滅多に手に入らないのかも知れないけど、アタイにとっては時間さえあればいくらでも生み出せるんだからお得な取引なのよね)


 それからと言うもの、色んな科学の話を聞いて覚えたわ。

 物質は温度で変化していくものなの。

 冷たいところでは固い石や金属だったものだって、温度が上がれば液体になるし、更に高温にすれば気体になるよ!

 あの人はそれを水を使って説明してくれたわ。


 あなたは知ってる?

 水を沸騰させていくといつかは無くなっちゃうけど、それは水蒸気っていう白いモヤモヤの気体となって空中に広がっていくからなのよ。


 アタイから見たら『水のエーテル元素』が『風のエーテル元素に』変わっていくのが不思議だったんだけど、科学的に教えて貰ったからスッキリしたわ。


 金属って言ったら、もう一つ気になるものが有るの。

 それはあの人が腰に下げてる不格好な金属のかたまりのことよ。

 勇者だったら、装飾鮮やかな素敵な剣の方がずっと似合うと思うのよ。


 アタイが「その不格好な金属のかたまりって何?」って聞いたら、その時初めてあんなに笑顔の似合うあの人が、とても悲しそうな表情を浮かべたの。



***



※連作前話:見知らぬあの人と未知の概念 

      ~夢みる妖精とゴーレムのみる夢【オムニバス短編】~

 https://kakuyomu.jp/works/822139841681029569

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妖精族の元女王は科学者の卵になる ~夢みる妖精とゴーレムのみる夢【オムニバス短編】~ そうじ職人 @souji-syokunin

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