第3話 入団式 ②
「……っと! なんか重くなってきたな!」
烈がぱんっと手を叩き、明るい声を上げた。
「まあ要するにだ! 昔はいろいろあったけど、
今はちゃんと前向いてやってます、って話だろ?」
場の空気が、ふっと緩む。
澪が苦笑しながら烈を見る。
「もう……でも、間違ってはいないわね」
「だろ? 暗い顔してても何も変わらねえ」
烈は笑いながら肩をすくめた。
千景が小さくため息をつく。
「……あんた、雰囲気ぶち壊す天才ね」
「壊すのは得意だぜ!」
そんなやり取りに、自然と空気が和らいでいく。
薫は書類をまとめ終え、静かに口を開いた。
「陽翔くん。今の話、急に重かったと思うけど……
無理に全部理解しなくていいからね」
陽翔は少しだけ戸惑いながらも、頷いた。
「はい……ありがとうございます」
近衛は腕を組んだまま、一同を見渡す。
「よし、顔合わせは済んだ。あとは、これからだ」
団員たちがそれぞれ動き出す。
大広間は少しずつ、賑やかさを取り戻していった。
陽翔は、その様子を少し離れた場所から見ていた。
騒がしくて、落ち着かなくて、
それでも——妙に安心する空気。
胸元の獅子の紋章に、そっと視線を落とす。
「……よし」
小さく息を吐き、陽翔は一歩踏み出した。
ここから始まる、このクランでの日常へ。
「……陽翔くん」
静かな声がした。
振り向くと、薫が少しだけ柔らかい表情で立っていた。
紺色の髪を整え、丸縁の眼鏡越しに、穏やかな視線を向けている。
「ちょっと、いいかな?」
「は、はい」
陽翔が頷くと、薫は広間の端、窓際の落ち着いた場所へと歩き出した。
朝の光が差し込み、床に淡く影を落としている。
「さっきの話……急に重たいことを聞かせてしまって、ごめんね」
薫はそう言って、軽く苦笑した。
「いえ、大丈夫です」
「そう? ならよかった」
少し間を置いて、薫は続ける。
「君がここに来る前の暴黒の獅子は、
正直言って……あまり誇れる状態じゃなかった」
その言葉には、否定も飾りもなかった。
薫は少しだけ言葉を選ぶように、視線を落とした。
「……さっきの話、ひとつだけ付け加えるなら」
陽翔は黙って耳を傾ける。
「僕はね、近衛さんに救われて、ここにいる」
淡々とした口調だったが、その言葉には揺るぎがなかった。
「昔、判断を誤って……自分ひとりじゃ、どうにもならない状況に陥ったことがある。
そのとき、手を差し伸べてくれたのが近衛さんだった」
薫は静かに息を吐く。
「強いだけじゃない。
〝守る〟ということを、迷わず選べる人だ」
そして、眼鏡越しに陽翔を見る。
「だから僕は、あの人の背中を信じている。
副団長をやってるのも、その延長だよ」
少し照れたように、薫は笑った。
「……尊敬してるんだ。心からね」
陽翔は、その言葉を噛みしめるように頷いた。
「だからね。君が『人に魔法が撃てない』って言ったとき、
それを理由に拒む人はいなかった」
陽翔は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「君の実力とか魔法が撃てないとか関係ない。
人を無条件で助けれる君を、僕達は信じる」
薫は優しく微笑む。
「無理をしなくていい。
困ったら、僕に言って。副団長としてじゃなくてもいいから」
その言葉は、静かで、押しつけがましくなかった。
「……ありがとうございます」
陽翔は、素直にそう答えた。
「うん。じゃあ――」
薫は少しだけ表情を崩し、肩の力を抜く。
「今日は顔合わせだけだし、
このあと烈くんに捕まる前に、逃げておいた方がいいかもね」
「え?」
「十中八九、無駄に絡まれるから」
その一言に、陽翔は思わず笑ってしまった。
遠くの方で、烈が誰かに大声で話しかけているのが聞こえる。
「……本当ですね」
二人は小さく笑い合い、
拠点の朝は、ゆっくりと本当の日常へと溶け込んでいった。
────────
「陽翔ーー! 手合わせしようぜー!」
背後から、いきなり腕が首元に回された。
「わっ……!?」
「昨日の動き、結構良かったんだよな!
もう一回やろうぜ、今度はちゃんと縛るからよ!」
力は軽い。締める気などまるでない、ただの悪ふざけだ。
赤く刈り上げた髪に、鍛えられた肉体。烈は年上らしい余裕を浮かべたまま、無邪気に笑っている。
「ちょ、烈さん……!」
そのとき――
「……離しなさい」
明らかに機嫌の悪い声だった。
烈の腕が、ぴたりと止まる。
振り向くと、腕を組んだ千景が立っていた。
小柄な体に灰色のショートヘア。
鋭い黄色の瞳が、烈を真っ直ぐ射抜いている。
「何よ朝っぱらから。新人に絡むのやめなさい」
「絡んでねぇって。可愛がってるだけだろ?」
「そういうのを絡むって言うの」
千景はため息をつき、烈を睨む。
「それに——あんた、昨日の掃除当番、サボったでしょ」
「はぁ!?」
烈が大げさに声を荒げた。
「サボってねぇし!
昨日はルール違反の罰で筋トレしてたんだよ!
時間なかったんだっつーの!」
「だからって免除になるわけないでしょ」
「理不尽かよ!」
「自業自得でしょ!」
二人の言葉がぶつかり合い、ぱちぱちと火花が散る。
「……もう、朝から元気ね」
少し呆れたような、それでいて柔らかい声。
澪が二人の間に歩み寄った。
紫がかった薄ピンクの髪が、肩の上でふわりと揺れる。
穏やかな薄ピンク色の瞳が、言い合う二人を包み込むように細められた。
「掃除の件は、あとでちゃんとやればいいでしょ。
今日は顔合わせの日なんだから」
「……ふんっ」
「……ちっ」
千景と烈が同時に視線を逸らす。
澪はくすっと小さく笑った。
「ほら。二人とも、深呼吸」
その一言で、張り詰めていた空気がふっと緩む。
薫は机の書類を整えながら、慣れた様子で小さく息を吐いた。
近衛は腕を組んだまま、その様子を静かに見ている。
どうやら、これも日常の一部らしい。
「……あんたは、気にしなくていいから」
千景がちらりと陽翔を見る。
険しい表情のままなのに、その瞳だけは不思議ときつくなかった。
「烈は放っておくと、調子に乗るだけだから」
「おい!」
烈がすかさず突っ込む。
「今の絶対余計だろ!」
「事実でしょ」
「ちくしょう!」
そのやり取りに、陽翔は思わず小さく笑ってしまった。
騒がしくて、くだらなくて、
でも、不思議と落ち着く。
――昨日まで、噂でしか知らなかったクラン。
今はもう、その中に自分が立っている。
陽翔は、無意識に肩の力が抜けていることに気づいた。
(……悪くない)
誰かが怒鳴っていて、
誰かが呆れていて、
それでもちゃんと、誰かが止めてくれる。
そんな当たり前の光景が、ここにはあった。
ここから始まるのは、戦いだけじゃない。
こうした日常も含めての――
“暴黒の獅子”なのだと。
────────────
キャラ紹介
守谷もりや 澪みお
25歳
170cm
グラマラスで女性らしい体型。
髪色 紫がかった薄ピンク
瞳 薄ピンク
能力 活性 体の組織を活性化させ回復する。
巨乳で女性らしい体つき。
無意識に人を惹きつける雰囲気を持ち、距離感が近い。
仕草や声色に色気があるが、本人に自覚は薄い。
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