凡間凡の冒険

御弟子美波留

プロローグ――始まりの朝

雨上がり、生温い空気の漂う春の朝。

新卒で就職した元学生たちがオフィスで仕事を始めようとする中、彼らの同期の中で唯一進路を決めあぐね自宅警備員となった男がいた。

その男――凡間凡ぼんまぼんは、3枚重ねの分厚すぎる布団の中で大汗を掻きながら爆睡していた。起きる気配はない。

「ぐ〜〜〜〜〜〜、ぐが〜〜〜、すぴ〜〜〜」

ちなみに、鼾は言うまでもなく五月蝿い。


すると、凡間の部屋に入ってくる人影があった。凡間の大学時代の教授である。

彼の名は――ここでは伏せておこう。F教授とでもしようか。

F教授は、凡間のそばに腰掛け、優しく声をかけた。

「凡間くん」

「ぐが〜〜〜〜〜」

凡間は相変わらず寝ている。

「……君の就職先、見つけられなかったよ」

「ぐほぁっ!?」

どうやら起きたようだ。凡間はF教授を見て目を丸くしている。

「でもね、僕の友人がミステリー好きで、君は探偵をやったら面白いんじゃないかと言われたよ。まあ、軽く聞き流してくれて構わないんだけどね」

「探偵……その話、本当か?探偵は探偵なのだぞ?」

「ははっ。そうだな、探偵は探偵だな。しかし凡間君、君は本当に探偵をやるつもりなのか?稼ぎは見込めないぞ」

「探偵は探偵だ。つまり、職業なのだ。私はやるぞ」

「ほう、あの凡間君がなかなか頼もしいことを言うようになったな。君の気持ちはわかった。しかしまさか君が探偵か。ふむふむ。あいつの言っていたとおり、たしかに面白そうだ」

「ふん。この私だからな」

「褒めてないからな」

「えっへん」

こうして、ニート凡間は、F教授の尽力のお陰で探偵事務所を持つことになり、ただ一人で様々な調査に励んでいくのだった。

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凡間凡の冒険 御弟子美波留 @miharuodeshi

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