卵を守って育てるということ

 さて、筆者は結果的にカクヨムの中でも中程度の実力を発揮できた。

 何かしら書けば反応は得られるし、好意的な感想も送ってもらえるようにもなった。

 大変ありがたい限りである。


 当然、このような恵まれた立場に至るまでには、筆者は努力を重ねてきた。

 が、決して自分一人だけで辿り着けたとは思っていない。

 いろんな人と作品を通じて交流し、関係性を紡いでいったが故の結果である。

 特に、筆者自身が卵だった頃に、応援の言葉をかけて筆者を育てて下さった先輩カクヨムユーザーの方々には、頭が上がらない。


 おかげで、筆者という卵は割れることも腐ることもなく、伸び伸びと育つことができら。

 筆者は堂々と「卵の殻を破れた」と言えるだろう。

 もっとも、まだヒヨコであると思うが。



 殻を破れば見えてくる世界も変わってくるもので、いつからかはわからないものの、自分の中での傾向にも変化が生じていた。


 筆者は執筆活動の合間に、積極的に他ユーザーの作品を読んではレビューを書いている。

 そう、「書いている」。

 単に星を投げるだけではなく、しっかりと読んだ上でバチクソに感想を、結構長文で書くわけである。

 理由は複数あるが、いずれも単純だ。


 仕事の手隙な時間の有効活用。

 読めば読むだけ自分の糧になる。

 インプットとアウトプットのトレーニング。

 しっかり読んだという証になる。

 良い作品を読ませてもらったことへの感謝の気持ち。

 気持ちがダイレクトに相手に伝わる。

 相手が喜びモチベーションが上がる。

 ワンチャン自分に興味を持ってもらえる。


 こう並べてみると、結構自分本位で利己的な理由も見受けられる。

 それでいいのだ、純粋な善意など世の中に存在しない。

 見返りを期待する下心があった方が、かえって信用に値するというものだ。


 なお、この「見返り」は筆者の思惑を超えて、グッドレビュワーに選出されたり、ナツガタリで500円分の図書カードになったりした。

 筆者は宇宙猫になった。




 そして、筆者も人間なので好き嫌い……つまり、「読む作品の傾向」というものがある。

 自分が書いているくせに、異世界ファンタジーやラブコメなどのジャンルはあまり読まないのである。

 以前はもう少し読んでいたが、現在の傾向を見ると、ホラーや現代ドラマ、ミステリーなどに食指が引かれていきがちだ。

 純粋に、「面白いと思うから」である。


 が、それ以上に、「ジャンル的に読まれにくい」という弱点を抱えていることも、自分がそのジャンルを積極的に読む要因になっている、かもしれない。




 めちゃくちゃ語弊を産む言い方であるが、あえて言う。

 カクヨムを牽引するジャンルであるファンタジーとラブコメは作品数も多いため、玉石混交とはいえ石率が高い。

 その上で、ほっといても誰かがその石をもてはやす。

 石を読むのが筆者である必要がないのなら、筆者は喜んで他の作品を読ませてもらう。


 が、伸びにくいジャンルは平均的に文章力が高く、玉石の玉率が高い。

 つまり、「面白いのに読まれてない作品」がかなりたくさんある。

 面白い作品は、勿論読みたい。

 そして、もっと読まれてほしい。

 自分が読んだ作品が正当に評価されて、後方腕組みを決め込みたい。

 あわよくばその作者がまた新たな良作を生み出してこちらが読むという、永久機関を成立させてほしい。


 その可能性を、筆者は「レビュー」という行為に見出した。

 筆者は馬鹿で単純なので、自分が嬉しく思うことを他人にも行えば、自分と同じようにモチベーションを上げてくれると思っているのである。

 なので、鯉に翼を生やして滝を登らせるかのごとく、バチバチのレビューを書くようにした。

 結果、結構な割合の作者様が喜んでくださっている。

 こちらのレビューが、その作者様の創作モチベーションの炎にくべられていることを祈るばかりだ。



 そんなわけで、いつしか自分はマイナージャンルの伸び悩み作品ばかり読む、俗にいう「スコッパー」となっていたわけである。

 とはいえ、あくまで自分本位、面白いと思った作品のみをスコップする、選り好み型のスコッパーである。

 沈んでいる数多の作品を分け隔てなく掘り起こそう、という高尚な思惑で掘っているわけではない。

 打算が裏にある、欲に忠実なスコップである。



 そうやってスコップしている内に、「卵」なユーザーとのエンカウント率も上昇した。

 勿論、面白いと感じればレビューを書く。

 やはりというべきか、喜んでもらえる。


 今度は自分が「卵を守り育てる側」になっていたわけである。



 とはいえ、筆者自身が「育てる側」の「脱卵ユーザー」であるという認識は、結構長い事薄かった。

 が、明確に自身が「卵」たちを守り育てる側だと強く認識した事件がある。



 そう、「カクヨムAIショック」である。

 いや、そう呼ばれてるかどうかなんて知らん、勝手に筆者がそう命名した。


 なんのこっちゃという人は、これを読んでほしい。

・AI生成小説によるWEB小説サイトの崩壊

 https://kakuyomu.jp/works/822139838354009256


 簡単に説明すると、生成AIを利用した作品による尋常じゃないほどの大量投稿がカクヨム内外で明るみになり、方々で問題視された事件である。

 最終的に、カクヨム側が牽制的な対応策をいくつか講じることで一定の落ち着きを見せたわけだが、あの時は本当に危機感を覚えた。


 というのも、作品投降のプラットフォームとして機能しなくなることを、かなり真面目に危惧したためである。

 生成AIによってプラットフォーム汚染が進んでしまった場合、その機能が完全に麻痺してしまい、初心者たる卵たちの新規参入の機会が奪われてしまう。

 そうなれば困るのは、他でもない自分たちである。

 

 遊戯王の有名なコラ画像ミームである「初心者に優しいキースさん」概念でも語られているように、「どんなコンテンツでも初心者が入らないと廃れていく…… 初心者は大切にして沼に沈めねぇとなぁ!」なのである。



 この時から明確に、自分が「卵を守って育てる側」であると自認した。


 あの時共に声を上げて下さった方々、改めましてありがとうございました。



 卵たる初心者たちを守って育てていくためには、卵本人を応援するだけでなく、それが育つ環境を整え守っていくことも大事なわけである。

 当然だが、自分が評価されないからと言って、そのフラストレーションを卵を割ったり、腐らせたりするような行為で発散するなど、もってのほかである。

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