雨に宿りしもの

藤川みはな

第1話


その村は雨に飢えていた。

日照りの影響により作物は育たず、

水不足により、命を落とす者が後をたたない。


村人達は雨を望み、神に祈る。


どうかこの娘の命を捧げる代わりに

雨を降らせて欲しいと。


娘は突然やってきた使者に驚きもせず、

自分の運命を受け入れているかのように

凛とした足取りで輿に乗った。


娘の表情は無表情のまま変わることはない。


儀式の場で娘は美しく舞い踊り、

最後の命の輝きを放つ。


天に伸ばした手を胸元に持ってくると娘は願った。


「どうか、この村に慈悲を」


ただそれだけの願い。

だが村人達の思いが、ひとりの娘を死に追いやる。


娘が死ぬと、村人達の願いが天に通じたのか

今年初の雨が降った。


最初は狂喜乱舞して、宴を開き騒いでいた

村人達だったがひと月も経てばその恩恵に

眉を寄せる。


「雨のせいで作物が枯れてしまった」


「いつも袖元が濡れて鬱陶しい」


「地面がぬかるんで、歩きにくい」


そんな村人達を見た娘は唇を噛み締め、

拳を強く握りしめる。


どうして。


わたしはこの命を捧げてまで

あなた達の願いを叶えたというのに。


悔しくて恨めしくて堪らなかった。


「ならば、そなたに復讐する機会を与えよう」


その声が聞こえると同時に、

気づくと雨が降り続ける神社の軒先に立っていた。


「貴女も雨宿りですか?」


凛とした声に振り向くと、

娘を贄に、と声を上げた青年が立っていた。


この青年さえいなければ、わたしは。


ふと思いついた考えに唇の端を吊り上げる。


「貴方は雨が嫌いですか?」


「え、ええ」


その答えと同時に金色のかんざし

青年の胸を突き刺した。


鮮血が勢いよく舞い、頰にべとりと血が付着する。

音を立てて崩れ落ちた亡骸に娘は

真っ黒な瞳を細める。


「それならば、あなたも贄となりなさい」


嬉しそうに楽しそうに唇に弧を描く。


青年が不可解な死を遂げ、騒ぎになっている様子を

遠くから見つめる幼い少女は金の簪を

握りしめながら不気味な笑みを浮かべた。


雨が止み、雲の隙間から光が差した。










(終わり)

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