視点

Zeta-P

視点

 少女の視線の先には緑葉が広がり、足元には色とりどりの花が咲いている。もうすぐしたら、家が見えてくる。

「あぁ、ポカポカしていい気分ね。毎日こんなお天気だったらいいのに。」

 少女は呟き、手で日差しを遮りながら空を見る。すると、だんだん雲が近づいているのが分かった。

「いやだわ、黒い雲が太陽を隠してしまう。せっかくのいい気分が台無し。」

 そう言って歩く速度を速めると、道の外れに露店が見えた。


「何かしら、めずらしいわ。おじいさん、ここでは何を売っているの?」

 露店の店主をのぞき込む、そこにはしわしわの老人が一人いた。

「やぁお嬢ちゃん。ここの商品は、お嬢ちゃんには少し早いかもしれんのぅ。そうじゃ、よかったらこのお人形をもらってくれないかな、この人形は寂しがり屋なんじゃ。」

 老人は、荷物の中からかわいらしい人形を取り出して、見せてきた。

「あらかわいい、私にそっくりだわ。名前はあるのかしら。」

「エリーズですじゃ。」

「そう。エリーズ、よろしくね。」

 老人に別れを告げて家路につく少女。道が開けて家が見えた。嬉しさに景色を跳ねさせながら、中に入った。


「さらさらの髪の毛、うらやましいわ。トリートメントはしているのかしら。」

 人形に話しかけながら、小さなクシで髪を解く。


「ずっと一緒よ。もう寂しくないわね、エリーズ。」

 人形の瞳はガラスの様に透き通り、少女の瞳を映し出す。暖炉の炎がパチパチと跳ね、癒しの空間を演出する。


「エリーズ……。」

 愛する友との時間は一瞬で過ぎる。少女は、重い瞼を持ち上げるのが精いっぱいになっていた。


 ――バッシャーンと大きな雷鳴が轟いた。


「……!」


 少女は背中を丸めてしゃがみ込む。


 耳を塞いだ手をどかすと、彼女は人形を抱きしめ、寝床についた。


「もう寂しくないよ。」


 少女は人形の髪を撫でながら、幸せに眠った。

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