結婚反対派の嫁ぎ先

黒井ちご

嫁ぎ先は剣士のお家

アルメリア家。資産家の家で貴族一族である。新たな事業が波に乗りしばらくは安泰と見られている。そんなアルメニア家ではある問題が立ちはだかっていた。

「絶っっ対にいたしませんわ!」

アルメニア家長女、フェルネス・アルメニアが結婚を嫌がっていることだ。

貴族たるもの、政略結婚が当たり前で、提携を結んでいたり手元にあったりしたところの貴族と結婚をする。もちろん、フェルネスにも所謂婚約者がいた訳だが、とんでもない剣幕で結婚をお断りしたことでなくなってしまった。

こうなれば新たな婚約者を見つけてこなければならない。今までもたくさんの男がフェルネスと結婚したいと現れた。しかし全員突っぱねられてしまった。挙句の果てには無視までし始めてしまった。呆れ果てたフェルネスの両親は遂に強行突破に出た。

「フェルネス、今日もフェルネスと結婚したいという男が来ているわよ。」

「お母様、言っているでしょう?私は結婚致しません!しても小さい頃にあったあの男の子…あの子としたいのです!」

「そういわないで。それにもう承諾してしまったわよ。」

「…え?」

「今日からその人の家に行くのよ。もし本当に嫌なら帰ってくればいい。まずはお試し」

それを聞いて、フェルネスは膝から崩れ落ちた。

(嘘っ…。はぁ、私はあの子と結婚なんて出来ない身だったのね…。所詮貴族の身。あの子もどこの馬かもわからない女と結婚してしまったのかしら)

自室に戻り荷物を整理していると、母親が入ってきた。

「フェルネス、これが今日くる婚約者さんの写真。貴族出身ではあるけれど今は宮殿の騎士として働いているそうよ」

見せられた写真には黒髪にゴツイ肩幅を持ち合わせた男が映っていた。

「この人…?」

(違う違うっ!私が好きなあの子はもっとひょろっとしてて可愛くて…。こんなゴツくて強そうな人じゃない…。もうこうなったら何がなんでも帰ってきてやる!)

そう息巻くと、カランカランと玄関のドアが開く音がした。

「おはようございます。フェルネス様をお迎えに上がりました。」

そこに居たのは金髪を肩まで伸ばした青年が立っていた。

「あら、写真と随分違うのね」

「あぁ、私は召使いでございます。グラジオラス様はご自宅でお待ちです」

とりあえず頷いたフェルネスはヒールを履いた。

「行ってらっしゃい、フェルネス」

「…はい、お母様」

ドアを出ると、白馬の馬車が止まっていた。運転手は付いていた。

「どうぞ、こちらへ」

召使いに開けられたドアをくぐり、中に入った。狭くもないが広くもない。

隣に召使いが座ってくると、ドアは閉められ、馬車が発車した。

「フェルネス様、とお呼びすればよろしいでしょうか」

「え、えぇ…。大丈夫よ、それに、聞きたいことがあるわ」

「答えられる範囲内であればお答えしますが」

太ももに挟まったドレスの裾を取り出した。こういう時に限って変なことが気になる。

「…婚約者さんはどうして私と結婚しようと思ったのかしら」

召使いはうーんと唸った。

「どうして、というのは聞いていませんが…。どうして今になって結婚しようとしたのかという質問には、ずっと探してたんだとお答えなされました」

「答えになってないわね…」

窓に目を向けたが、ハッとして召使いに目を戻した。

「ずっと探してたって…。私、彼と会ったことあるのかしら」

「さぁ…。分かりませんがそうなんじゃありません?」

フェルネスは首を捻った。確かに通っていた小中高一貫校で男子と喋ったことはあるが、その中に居たのかもしれない。

(会ってみないことには分からないわね…。)

馬車は木の生い茂る道を音を立てて走った。

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