Resist

第1話 来たれ、文化祭。

 高校に入学して4か月目に差し掛かった。


 すっかり真夏日になり、人口密度の高い学校の教室は居心地が悪い。俺は、下敷きで仰ぎながら自分の生活する児童養護施設愛月学園の専属コックさんが作った弁当を食べていた。


 「てかさ、そろそろ文化祭準備はじまるけどこんな夏日にやらなくてもいいよなぁ」


 俺が卵焼きを食べながら目の前に座っている双郷平和に言うと、平和は眉間にシワを寄せた。平和も同じ弁当を食べている。


 「いつやってもめんどくせぇ」


 「まあ、そうだよなー」


 「てか、食ってる最中に仰ぐな」


 「はーい、ごめんごめん」


 平和は去年の4月に愛月学園に入所し、同室になった。愛月学園は4人部屋が基本で、俺の部屋も例外ではなかった。


 はじめてきたときは、金髪だったもんだからとても驚いたものだ。制服も着崩していていたし、口調も悪いからとんだ不良だと思っていたが、話してみると意外と真面目な男だった。


 「文化祭、出し物何やりたい? 俺はさ、やっぱりバンドとかカッコいいと思うんだよ。去年文化祭見に来たんだけどさ、聡太くんがギターやっててめちゃくちゃかっこよかったんだ」


 「バンドなんて経験者じゃなきゃできねーだろ。楽器やったことあるんか?」


 「え、ないよ? リコーダーと鍵盤ハーモニカならいける」


 「どんなバンドだよ」


 平和は食べるのがすこぶるはやかった。弁当も5分くらいで平らげてしまう。今日も俺の弁当が半分しか減っていないのに平和は手を合わせて「ご馳走さまでした」と呟くように言った。


 「でもさー、はじめてだから楽しみたいじゃん。バンドがダメならダンスが定番かな。去年も出し物がダンスのクラスめちゃくちゃあったんだよ。女装するのか定番だけど、それもあったなぁ」


 「女装なんか死んでもしたくねぇな」


 「えー、お前はべっぴんだからいけるよ」


 「な訳あるか」


 イラついたように平和が舌打ちしたので、俺は「ごめんごめん」と手を合わせた。平和は俺を睨んだが、やっぱり舌打ちした。


 平和は、同性の俺から見ても整った顔をしていてかっこよかった。多分、世間一般に美人だと言われる顔立ちをしている。俺は、素直に羨ましくてべっぴんさんと呼んでいるのだが、何故か平和は自分の容姿を褒められると嫌そうにした。


 「じゃあ、平和は何がいいと思うのさ」


 「何でもいい。俺はやらねぇ」


 「嘘だろ! お前、意外と真面目ちゃんなのにサボるの!?」


 俺がつい驚いて大きな声を出すと、平和は眉間にシワを寄せる。


 「めんどくせぇんだよ、何で出し物なんかしなきゃなんねーんだ。準備だけやるからいいだろ」


 「ええー、そういう問題? 行事楽しいじゃんか。勉強時間減るし」


 「くだらね」


 そういえば平和は中学3年生の時に転校してきたが、文化祭当日は終始楽しくなさそうにしていた。一応、出席はしていがクラスの出し物には殆ど関与していなかった。必要最低限、誰もやらなそうな裏方の仕事を細々とやっているくらいだった気がする。


 「せっかくの文化祭なのに。なんなら、俺たちなんてここに3年いるかもわからなんだからさ」


 「そんなんどーでもいいんだよ。めんどくせぇもんはめんどくせぇ」


 平和はそう言って席を立つ。彼はご飯の後は必ず教室を出て、予鈴が鳴るまで戻ってこない。どこで何をしているのかは知らない。


 「つまんねーの」


 俺は一人、大きなため息を吐いた。

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