「生命の誕生」

結音(Yuine)

砂粒

「これが、ヒトの卵の大きさです。

 命の始まりは、こんなに小さい卵からなのです。

 あなたたちも、この小さな一粒から生まれたのです。」


 提示されたのは、砂粒。

 先ほど、校庭から持ってきたもの。

 一ミリにも満たないそれに、子どもたちは、くらいつく。


「ヒトは、卵のままでは生まれてきません。

 お母さんのお腹の中で、ヒトの形になるまで大きくなって誕生します。」


 子どもたちの間を巡回する。

 先ほどの砂粒を見せて回る。


「この小さな卵が、ヒトになるためには『生命いのちもと』となるものが必要です。

 卵の中に『生命いのちもと』が入り込むことで、卵はヒトになっていきます。」


 スライドでは、受精卵が細胞分裂を繰り返す様子を映す。

 

 ”〇週目の卵の大きさは、○○と同じ大きさ。重さは、〇グラム。”


 〇の中を数字や果物のイラストで埋めながら、授業が進む。

 配られたプリントを穴埋めしながらも、

子どもたちの関心は、あの砂粒から離れない。それが分かったのは 終業のあいさつの後。


 子どもたちが、こぞって その砂粒を求めた。

 そして、大切そうに学習プリントにセロハンテープで貼り付けた。


 大切そうに砂粒を受け取る子ども。

 いろいろな角度から眺める子ども。

 吹き飛ばさないように息を止めて、凝視している子どももいた。



 ”自分の命の始まりが、こんなに小さな砂粒だったなんて!”


 その神秘に魅入られているかのような あの子どもたちの表情。


 難しいことは理解できなくても、

「生命の始まりの大きさ」

それだけでも伝わったのであれば……




 ――これは、そんな授業の断片的な記録。








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「生命の誕生」 結音(Yuine) @midsummer-violet

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