【19:03】開会

会議室は地下三階にあった。窓はなく、空調の音だけが規則正しく響いていた。円卓には五人が座り、中央のホログラム投影装置が淡い青白い光を放っていた。


主任研究員Aが資料をテーブルに置いた。紙の資料だった。デジタルではなく。それが何を意味するのか、誰も口にしなかった。


A: 「本日の議題は単純です。未確定状態を、社会としてどこまで許容するか」


行政代表Dはすぐに応じた。彼の声には焦燥があった。


D: 「許容の問題ではありません。未確定はコストです」


C: 「"コスト"という言葉を、すでに使っている時点で危うい」


倫理顧問Cの言葉は静かだったが、部屋の空気が一瞬固まった。


B: 「感情論は不要でしょう。観測とは、事実を確定させる操作にすぎない」


応用技術主任Bは、自分のタブレットから視線を上げなかった。


C: 「操作ですか。では誰が操作されるのです?」


A: 「世界です」


設計補佐Eが、わずかに身を乗り出した。


E: 「……人ではなく?」


A: 「人も含まれる」


沈黙が訪れた。空調の音が、やけに大きく聞こえた。

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