#十

廊下を歩きながら、私は考えた。


あの日の朝、端末が親切だったのは、すべて計算されていた。


信号が青だったのも。


コーヒーが熱々で届いたのも。


ルートが最適化されていたのも。


すべては、私を09:47:32にあの高架下に到着させるための調整だった。


だが、その時点で男はすでに死んでいた。


では、なぜ私をあそこに行かせたのか。


答えは明白だった。


私に罪悪感を持たせるため。


観測犯だと思い込ませるため。


そうすれば、私は抵抗なく観測補助員になる。


システムは、心理までも計算していた。


自室に戻ると、端末が振動した。


――明日の予定を確認してください


画面を開くと、明日の観測件数が表示されている。


十八件。


過去最多だ。


私は、端末を閉じた。


窓はない。地下五階には、外の世界は見えない。


だが、どこかで。


地上のどこかで。


誰かが倒れている。


誰かが死にかけている。


そして、誰かが清掃員として現場に向かっている。


確定後の死を片づけながら。


いつか、私と同じように。


未確定の現場に遭遇するかもしれない。


そして、ここに来るかもしれない。


地下五階に。


システムは、完璧に循環している。


## 10


その日の夜、私は自室で端末を開いた。


画面には、明日の予定が表示されている。


観測件数:十八件。


推奨睡眠時間:六時間。


栄養バランス:最適化済み。


すべてが、管理されている。


私は、端末を閉じた。


窓の外を見る。


街は静かだ。


どこかで、誰かが倒れているかもしれない。


どこかで、誰かが死にかけているかもしれない。


そして、誰かが見ている。


確定させている。


私のように。


私も、かつてはそうだった。


清掃員として、確定後の死を見ていた。


今は、確定前の死を見ている。


いずれ、誰かが私の後を片づける。


システムは、完璧に循環している。


私は、ベッドに横になって目を閉じた。

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