「コロンブスの卵」で有名な
烏川 ハル
「コロンブスの卵」で有名な
今日の夕食はおでんだった。
その
やや平たく、丸い練り物。小さめの卵が中央に、その姿を半分見せる形で埋められていた。
「どうしたの? あなたが苦手な食材、入れてないわよね?」
妻が怪訝そうな表情を浮かべるので、安心させる意味で、私は微笑んでみせた。
「ああ、大丈夫。これ、うずらの卵だよな?」
「ええ、そうよ。あなたも好物の、うずらの卵」
私は頷きながら、さらに問いかけてしまう。
「うずらの卵ということは、うずらが生んだ卵で、その卵から生まれるのもうずらだよな? そして買い置きしてある卵は……」
一瞬軽く振り返り、冷蔵庫に視線を送ってから言葉を続ける。
「……ニワトリの卵。だからニワトリが生んだ卵で、その卵から生まれるひよこも大きくなればニワトリになる」
「あなた、何を当たり前のこと言ってるの? まあ食用の卵は無精卵だから孵化しないし、ひよこもニワトリも生まれないけどね」
「ああ、そうだよな。うん、何でもないから、気にしないでくれ」
と言って、私は強引に話題を収めた。
妻に詳しく説明する気はないからだが……。
そう、妻の言う通り「当たり前のこと」なのだ。
うずらの卵を生んだのはうずらで、その卵からうずらが生まれるのも。
ニワトリの卵を生んだのがニワトリで、その卵からニワトリが生まれるのも。
だから子供の頃「アメリカ大陸を発見したのは『コロンブスの卵』で有名なコロンブス」と教えられた私が、しばらく誤解していたのも仕方ないだろう。
「卵から生まれるような奇特な人だからこそ、コロンブスはアメリカ大陸発見という偉業を成し遂げたのだ」と。
(『「コロンブスの卵」で有名な』完)
「コロンブスの卵」で有名な 烏川 ハル @haru_karasugawa
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