一話



 死体のない飛び降り自殺。


最近、そんな都市伝説が流行っているらしい。

「人がビルの屋上から飛び降りた。」

「飛び降り自殺をした人がいる。」

 そんな通報が入り、警察や救急隊が現場に駆けつける。

 しかし、大きな血痕は見つかれど、肝心の死体が無い。身体の一部なども綺麗さっぱり残っておらず、残っているのは血痕だけ。

 飛び降り自殺の現場にが無いんだと。


おぉ怖い怖い。


しかも、

落ちた人が急に起き上がってどこかに走り去ってった。

なんて噂も。


「バカバカしい。」


 そう言いながら卵焼きを口に放り込む。


「おい!」


「ん?」


「人が真剣に語ってるのに、『バカバカしい』はないだろ。」


なんで?

バカバカしいだろ。

そんな都市伝説。


 米を口に運ぶ。


「ほんとに見たんだって!廃ビルの屋上から人が落ちたとこ!

で、見に行ったらよ、、、」


死体ひふぁいがなかったんだろ?何回目だよこの話。」


「だーっ!もう!だーかーら!お前信じてないじゃん!」


信じるわけがないだろ。

なんで死体がそんな短時間で消えるんだよ。

 

 モグモグ。


「どうせ、どっかのユーチューバーのドッキリ企画かなんかだろ。下にクッションが敷いてあってさ。

そこに、こう。」  


「いーや。それにしては血がリアルだった。

めっちゃ飛び散ってたもん。匂いも半端なかった。」


ふーん。

興味ないね。

こっちは弁当箱の隅に溜まった米との格闘で忙しいんだ。

話しかけないでくれ。


「マジでこいつに相談しなきゃよかった、、、」


 はぁ。と、クソデカため息。


なんだこいつ。

ほかに相談する相手もいないくせに。

よし取れた。


 最後の米粒を食べ、弁当箱を閉める。


「おおかた、血の匂いを再現したスプレーとか撒いてたんだろ。血糊と合わせてそれっぽく。

都市伝説通りだとすれば、肉片とかが残ってた訳じゃないんだろ?

じゃなきゃお前の大嘘だね。」


「、、、」


 ムスッと不服そうな顔。だが、言い返せないらしい。


フッ、昼メシ時の俺はレスバ最強だぜ?


 まぁ反応を見るに、嘘じゃないんだろう。だが、本当に死体だけ綺麗に無くなったとは考えられん。


「警察には一応通報したんだろ?

ならその血痕とやらも解析?かなんかすれば、本物かどうかも分かるんじゃないのか?」


「、、、いやさ。

なんか怖くなって匿名で通報しちゃったんだよ。

血が飛び散ってるの見て、パニクっちゃって。

あまりにも怖くてさ、しかも見た後すぐに走って家帰っちゃったもんだからさ。」


馬鹿か?

こいつ。

やっぱり嘘じゃねえか。

ボロ出したな。

嘘つくにしても、もっとマシな嘘をつけよ。


「ほな、お前の嘘ってことで。」


「クソっ!話が通じねぇ!」


お前の普段の行動のせいだよ。 


「お前、みんなから虚言癖石田って言われてるけど、知ってんの?」


「、、、え? 

オレが、、、?

石田って、オレのコト?」


この学年でお前以外に石田は居ねぇ。


「ウッソ、マジで、、、?」


「おん。お前普段から嘘ばら撒いてるじゃん。雷にうたれたことあるだの、中学の時に学年一の美女に告られただの。

微妙に分かりづらい嘘ばっか。」


 俺はこいつと幼稚園からの付き合いだが、それらの話は一度も聞いたことがない。 

 もちろん親同士も仲が良かったので、こいつのことは全て把握してると言っても過言ではない。

 なんなら中学の話に関しては、お前が告ってフラレた側だろ。

3日間泣き続けてたの、忘れねえからな。


「、、、」


石田、絶句。

ワロタ。

そこまで虚言が知れ渡ってるとは思ってなかったらしい。


 ちなみに虚言癖石田、はガチで呼ばれてる。虚言癖なのはホントなので俺も否定しない。

誰も否定できない。


「まぁ、嘘もほどほどにするこったな。」


 ポンと肩を叩く。


「」


すっげえ顔。

困惑と疑念と怒りが混ざったような。

写真に撮って保存してやろうか。


「フン。」


 拗ねたらしい。鼻息荒く、そっぽを向く石田。

 

、、、女子ならともかく、男子高生がそれをやるのはちとキツイぞ、石田よ。

 


===================



夜8時。

バイトからの帰り道。 

ひとり、歩く。


 昼の件がよっぽど効いたのか、石田がバイトのシフトを飛んだ。

 おかしいと思ったんだよ。あれから休み時間も全く話さねぇし、放課後は一人でサッサと帰っちまうし。

 俺がバイト先に着いた頃、急に休みの連絡。あの馬鹿野郎のせいで、今日はワンオペ。掃除に手こずり、帰宅も遅れた。


あのクソったれめ。

俺は事実を伝えただけだろうが。

元はといえば虚言をばら撒く石田アイツが悪い。


 ザリザリと靴とコンクリートが擦れる。


ザリザリ

ザリザリ

ザリザリ


、、、


はぁ。


 まぁ、ちょっとやりすぎではあったか。フォローも慰めもなく、思い切りぶっ刺すのは。

 飯時をどうでもいい都市伝説で邪魔されて、若干イライラしてたのは確かだ。

 、、、まぁ明日、一応フォローを入れといてやろう。『嫌われてる訳じゃないから大丈夫だよ。』とか言っとけば、機嫌も直るだろ。

 ちなみに、俺と石田の家は斜向かい同士。

バイト先も同じ。今日はたまたまシフトが被った。

石田は飛んだ。


ザリザリ

ザリザリ


、、、


シフトって飛ぶか?フツー。

学校には来てたのに?


ザリザリ

ザリザリ


、、、


やっぱアイツが悪くね?



====================



歩く。

ただひたすらに。


 なんの変哲もない、街灯だけの道。天気は良い。月明かりでかなり遠くまで見える。

そろそろ高校の校門前あたりに差し掛かる。

 バイト先は、家から見て学校の向こう。距離もそこまで遠くない。そのため、バイト先へは学校から直接行っている。高校までが徒歩圏内なので、バイト帰りも必然的に徒歩だ。  

 若干遠いので、少し面倒臭い。かといって、自転車が必要な距離でもない。自転車買うのにも金はかかる。必要以上の出費は避けたい。


まぁ、歩くしかない。


歩く。


歩く。


歩く。





、、、?





なんだ?あれ




 右、50メートルほど先。高校の校舎。その屋上。

なにやら人影のようなものがゆらゆらしている。


「こんな時間に何やってんだ?ありゃ。」


あれ?

屋上って確か立ち入り禁止じゃなかったか?


 じっとよく見る。うちの制服だ。


おかしい。

こんな時間まで生徒が残っている?

しかも屋上?

どういう事だ?


 混乱している間に、

 

人影が、フェンスを登り始めた。




まずい。

まずくないか?あれ





 人影がフェンスを登り終え、屋上の縁、フェンスのにすとんと立つ。



止めなければ。


 足が動かない。


止めなければ。


 動けない。






もう、無駄だ。











 人影と目が合った。 


気がした。













 落ちた。



 






 




 グシャッ











 



死んだ。

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