竜人の産卵環境について

kei

母の卵と僕とマヤ

僕たち竜人には、専用の産卵センターがある。鳥人は家でもうまく孵るそうだが、竜人はそうでもない。


僕たちの居住区で選べるのは第一から第三産卵センターだった。母は、男性になりやすいという噂の第三産卵センターに卵を産みに行った。


「タツヤ、妹たちをよろしくね」

「わかった。安心して産んできて」

「弟になるように祈ってね」


僕はうなずいたけれど、多分今回も妹だろう。


原因は、昨今の異常気象だ。年を追うごとに暑くなる。竜人の性別は、卵のある環境の温度の影響を大きく受ける。ここ数年、生まれる子どもはその多くが女の子だった。


温度管理された環境での人工孵化も何度も試みられてきたが、何かの条件が合わないのか、人工孵化はそのすべてが失敗していた。


第一産卵センターが一番気温が高く、第三が低い。第三産卵センターはそれで大人気だったが、そこでも男の子が生まれることが少なくなってきた。


別に妹でもいいのに、とは、次こそ弟を、と、気合いを入れている母にはとても言えない。


「タツヤ、それ言っちゃ駄目よ」


と言うのは、幼馴染のマヤだ。マヤも竜人だ。赤いグラデーションの鱗が可愛い。


「わかってるよ。母さん頑張ってるのに」

「そうじゃないの」


マヤは、あたりを見回して、声を潜める。


「男の子は習っていないかもしれないけれど、って知ってる?」

「ヘビとかが、メスだけで卵産むやつだろ」

「竜人の私たちもできるの」

「なおのこと良いじゃないか。男なんて居なくても」

「だめ。生まれた子どもが全部親のクローンになるから」

「何が駄目なのさ」

「かかりやすい病気が流行ったり、環境がちょっと合わなくなったら、あっという間に全滅しやすくなるし、それに」


マヤは、そこまで話して口ごもる。


「なんだよ」

「今、そうするしかないって、女同士で家族になって子育てする竜人が増えてるの」

「本人たちが幸せなら良いだろ」

「私、今それで、結構酷いこと言われてるの」

「なんでだよ」

「タツヤのことが好きなのが、変態だって」

「僕だってマヤが好きだし、普通のことだろ」

「卵を有性で産みたいのがあり得ないんだって」

「言ったやつ脳みそ腐ってやがる。自分はどんな卵から生まれたか考えてみやがれってんだ」

「タツヤの妹たち、みんな可愛いけど、女同士で家族作らないといけないかも。次の世代はみんなそうかも。それにね」

「なに?」

「遺伝的な多様性を維持しないといけなくなったら、タツヤは、そのために拘束されてしまうかも。私、ほかの竜人がタツヤと卵つくるの嫌だよ」


その可能性を、全く考えていなかった。


「マヤ以外とは嫌だな」

「だから一緒に考えよう。どうすれば良いか。私たちが卵を作る番になる前に」


母の卵から生まれた子は、やはり妹だった。男の子はひとりも生まれていなかった。


僕とマヤは必死に研究し、気象をコントロールして寒冷化する技術を開発した。


技術としては完成したが、多くの竜人の冬眠が誘発されたり、男の子ばかりが生まれてきたりと、まだまだトラブルは少なくない。


これからも改良して、持続可能な状態で次の世代に渡すのが僕たちの夢だ。



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