銀河の卵

夕日ゆうや

第1話 銀河の卵

 銀河の卵。

 それは高密度の素粒子と位置エネルギーとが合わさったサイコロ状のものである。

 そのサイコロが崩壊をすることで銀河が生まれる。

 反粒子と膨大な光を生み出した。


 今ここに『銀河の卵』を生み出した天才博士が存在する。

「これで研究は終わりだ。よくやってくれた、クリスティーヌ」

 助手をねぎらうのも博士の仕事である。

「いえいえ。ほとんどマギ博士の言う通りで、こんな歴史的瞬間に立ち会えたこと、わたしの方がありがたいですよ!」

「それほどでも……あるか!」

「そうです。今でも議会では次のノーベル賞候補として名高いのですから!」

「俺のボケを返してくれる?」

 クリスティーヌは真面目すぎるのが欠点だ。

「そうだ。このあと打ち上げでもしよう。エミリーとボブも呼ぼう」

「はい。お供します」

 研究資料をまとめていると、奥で何やら大きな音が聞こえてくる。

「な、なんだ!?」

 俺は気になってその場から離れる。

 研究室に入り込んできたのは覆面を被った怪しげな男二人。

 俺を脅すように手にした拳銃を向けてくる。

 ご丁寧にサプレッサーをつけている。

 あの服装。防弾装備か。それに防刃の服を合わせている。


 ――マズい。


 相手はプロだ。

 俺は慌てて机の陰に身を隠す。

 その頬をかすめたのは弾丸だろう。

「くっ……マズいな……」

 奴らの狙いは俺か、それとも研究資料か。

 確かにこの資料があれば自国のリードをとれる。

 いや、それ以上の効果がある。

 消したい国を消し飛ばすこともできるだろう。

 核兵器なんて目じゃないくらいの破壊力がある。

 しかし使いかたを謝れば、自国までもが消滅する。

 じわりと汗ばむ。

「マギ博士。我々の指示に従ってもらう」

「何をふざけたことを!!」

「従わねば、こいつを殺す」

 クリスティーヌがロープで縛り上げられていた。

「ま、待て。彼女は関係ない!」

「そうですかな? あのマギ博士の二番目の助手と聞いている」

 拳銃がこちらに向けられる。

「マギ博士、逃げて!」

 クリスティーヌは必至の形相で叫ぶ。

「くっ。すまん!」

 この資料を悪用される訳にはいかないのだ。

 しかしどこの国だ。

 これほどの設備を持ち、資料の重要性に気づいた。

 再現性の難しさから、ある程度国家は絞れる。

 R国か、T国か。

 あるはJ国。

 俺たちの研究を狙うならそのあたりだろう。

 研究室から飛び出すと、真っ直ぐに回廊を歩き回る。

 こっちには地の利がある。

 この研究施設の構造を誰よりも分かっている俺に勝ちの目がある。

 携帯端末を取り出し、警察に通報をする。

 次に連絡が取れそうなのはボブか。

「ボブ。すまん。助けてくれ! 強盗に入られた!」

『マジッスか! 今から迎えに行きます。クリスは?』

 そういえば付き合っていたな。

「すまん。強盗の手に落ちた」

『くそったれ!』

 彼の想いは当然のもののように想えた。

『車回します。エミリーにも連絡を』

「ああ。頼む!」

 相手が俺狙いならクリスティーヌは殺さないで交渉の用意をするだろう。

 とりあえず、俺が捕まれば全てが終わる。

 それはボブにも申し訳ない。

 何があっても捕まる訳にはいかない。

 それにしても奴らは小部隊だったな。

 恐らく国が極秘に扱える戦力には限りがあるということか。

 大部隊で攻めれば戦争になりかねないし。

 それにしても二人は……。

 気配を感じ、息を潜める。

 そういうことか。

 奴ら俺が逃げることも想定している。

 わざと部隊をちらばせておくことで包囲網をしいているのだろう。

 どこから逃げればいいのか。

 それに資料の一部は手に持っている。

 政府にこれを渡すつもりでいたからな。

 相手は少なくとも数十人規模の部隊だ。

 たぶん少ない戦力を全て投入してきたのだろう。

 ここでやられるわけにはいかない。

 中庭を通って獣道を抜けていく。

 幸いにもクマはいないようだ。

 抜けていくと、その先は真っ直ぐ駐車場だ。

 あとは待つだけ。

「マギ博士を見つけた! 登降しろ!」

「誰が!」

 俺は手にした砂の塊を敵兵にぶつけて、駐車場の中程までたどりつく。

「くっ。目くらましなど!」

 拳銃を向けて、引き金を引き絞る敵兵。

 ぷしゅ。

 太ももをかすめ、痛みにうめく。

 俺はその場に崩れ落ちる。

「博士を発見した。逃げられないよう、太ももを撃った」

 仲間に連絡しているのか。

 となれば、ここに敵兵が全員集合するだろう。

 厳しいな。

 キーキー。

 一台の車がブレーキ音を鳴らしながらもうスピードで敵兵に突っ込む。

「マギ博士、お早く!」

 助手席のドアを開けて、無理矢理乗り込む。

 そのままアクセル全開で駐車場を後にする。

「ボブ。助かった」

「でしょう? その資料渡してください。応急処置なんてしたことないですが……」

「ああ」

 資料をボブに手渡す。

 そしてオートパイロットにした運転席から、身を乗り出すボブ。

 時速60km制限がかかるが仕方ない。

 消毒と包帯で応急処置をする。

 言っていた通り、テキトーだが。

「どこに向かいますか?」

「アン総理に話しをしたい」

「ホットラインのあるところですね……」

 ボブは車のオートパイロットを外して、任意運転に切り替える。

 スピードをあげて車は行く。




           (続く)

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