第1章 「日常の風景」

桜井咲は、今日も教室の窓際の席でノートにペンを走らせていた。

春の柔らかな陽射しがカーテン越しに差し込み、教室全体を金色に染めている。友達と笑い合う声、廊下を歩く靴音、どれもがいつも通りの、穏やかな朝だった。


「咲、聞いてる?」

隣の席の水野美咲が、眉をひそめて声をかけてくる。咲はふとペンを止め、ノートから顔を上げた。


「うん、聞いてるよ。…何?」

「また妄想してたでしょ!」美咲は笑いながら手で咲の肩を軽く叩く。咲は思わず赤面して、ペンを握り直した。


その瞬間、教室の入口で一際眩しい存在感が目に飛び込む。

風間蓮――クラスで誰もが認める、文武両道の完璧男子。黒髪が少し乱れたその姿は、光に照らされて神々しくさえ見えた。


「おはよう、桜井さん」

蓮はにこりと微笑む。短い一言なのに、なぜか心臓が早鐘のように打つ。咲は慌てて顔を伏せ、ノートに視線を戻す。


(今日も、平和な一日で終わるはず…)

そう思ったのも束の間、事件は突然にやってきた。


昼休み、文化祭の準備で教室がざわつく中、咲は廊下で荷物を運んでいた。その時、何か光るものが彼女の視界に飛び込んだ。次の瞬間、目の前が白く眩しすぎる光に包まれ、立っていられなくなった。


気がつくと、目の前に見慣れた自分の身体ではない感覚があった。

「…え?」

手を見る。細くて冷たい指。胸のあたりに違和感。鏡を見ると、そこには――


「うそ……これ、私…?」


その瞬間、心臓が跳ね上がる。目の前には、信じられない光景。

自分の身体の主であるはずの風間蓮が、咲の目の前で、同じように驚愕した表情をしていた。


「……お、お前、俺の身体に……!?」

蓮の声に咲は絶句する。混乱と恐怖、そして胸の奥でじわりと芽生える不思議な高鳴り。


「どういうこと…?!」

咲と蓮の身体は、何者かの不思議な力によって入れ替わってしまったのだ――。

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