竜なぎの明日に
@bellca
なぎの空
未明、朝露が鼻を濡らす深い森の中。
魔瘴使い見習いの青年ライズは、その長い裾が汚れるのも構わず、一心不乱に手を動かしていた。
「太古よりその間に坐する隣人よ。悠久の支配者よ。我々、今ここに誓う。この身を賭け、この身を石と変え、柱となり、楔となることを。」
地面に描かれた魔法陣がわずかに光を放ち始める。
「そして、我は願う。貴君の器をここに顕現させ…」
突如、ライズの視界は漆黒に埋め尽くされた。
どこまでも暗く、冷たく、自分の体さえも見えない。
身動きも取れないまま、ただ息を殺して待つ。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
見えないはずの闇の向こうに、ライズは何かを見た。
それは瞳。巨大な瞳がこちらを観ている。切れ長の瞳は、睨みもせず、媚もせず、ただ、ライズを観ているだけだった。
目をそらすな。
ライズの脳内に警鐘が走る。
理由は分からない。ここまで必死に積み上げてきた知識も役に立たない。
けれど、ここで目をそらしてはいけないとだけ、ライズは知っていた。魂が目を背けるなと声を震わせていた。
「…い、おい!」
永遠に続くかと思われたその一方的な睨み合いは、友人_カインズの声で終わりを迎えた。
開いていたはずの目を開けると、快晴。
どうやら、すでに日は高くなっていたらしい。
「大丈夫か?朝から姿が見えないから、彼に探してもらったら、こんなところに倒れ込んでいたなんて。」
カインズの言葉も耳に入らない。
水を隔てたようにぼんやり揺れる言葉の波を聞きながら、ライズはただ曇ない青空を見つめるしかなかった。
上空には獲物を見定めていたのだろうか。数匹の群れをなしていた竜が、輪を崩して去っていく。
平和だ。今日も竜は凪いでいる。
竜なぎの明日に @bellca
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