廃墟は、まだ息をしている
霜月 響也
プロローグ
行ってはいけない場所と言われたら、何を想像しますか。
「え、廃墟ってこと?やだよ、久しぶりに地元に帰ってきて、久しぶりに会うのに廃墟に行くなんて。」
寒さが体にこたえる朝、離婚してから初めて地元に帰ってきた三上 旭(みかみ あさひ)は、近所に住む黒瀬 佑馬(くろせ ゆうま)に呼び出され、コンビニで缶コーヒーを啜っていた。
「いや廃墟じゃないって。行ってはいけない場所!!」
黒瀬はポケットに手を突っ込んだまま口を尖らせる。俺と黒瀬は小学生の時からの付き合いだが、口を尖らせる癖は今も治っていない。その癖を見て、離婚した時の虚無感や現実味のない状態が少し薄れた気がした。
「どういうこと?行ってはいけない場所って、危ない場所ってことか?」
「あ、そうか、お前高校からあっちだったから知らないのか。」
黒瀬がポケットから手を出し、口元にあてて白い息を吐く。確かに俺は寮のある高校に入学し、そのままその近くで働いているが、年末年始や結婚の挨拶などでたまに帰ってはきていた。離婚してからは初めて帰ってきたが、一度も行ってはいけない場所という話を聞いたことはなかった。
「で、なんだよ?その、行ってはいけない場所って。」
「小学校の頃、秘密基地で遊んでただろ?そこだよ」
「秘密基地……あ、あの角にある家?お前が勝手に秘密基地にした?」
「おいおい、皆で秘密基地にしただろ!それに、一番あの場所にいたのはお前と智樹じゃんか」
小学生の頃は俺と黒瀬、白川 智樹(しらかわ ともき)、松井 良和(まつい よしかず)の四人でよく遊んでいた。この四人で遊ぶときは、いつも川沿いの道の角にある廃屋で遊んでいた。といっても、まだ綺麗な家でなぜ廃屋になったのか気になるほどだったが、黒瀬が中に入れることに気づき、勝手に秘密基地と呼んで遊んでいたのだ。今考えると立派な不法侵入だが、子供の頃はその廃屋が自分たちの秘密基地だと思い込み、いろんなものを持ち込んでは遊んでいた。俺もあの場所を気に入っていて一人の時も足を運ぶほどだった。
「え、じゃあ秘密基地が行ってはいけない場所なのか?なんで?」
確かに廃屋だが、どこも崩れておらず誰かが怪我をした、ということはなかったはずだ。そんなに危ない場所になってしまったのだろうか。
「本当に知らねぇのな。…あの場所に行ったら、呪われるんだってよ。」
「呪われる?…じゃあ、俺たちはとっくに呪われてるな。」
ばかばかしい話だ。俺は缶コーヒーを飲み干し、ごみ箱に捨てに行く。
戻ってくると、黒瀬がにやにやしながらこっちを見ていた。
「今、あの場所は屈指の肝試しスポットなんだ。一緒に様子を見に行こうぜ。」
「なんで?あの頃は分からなかったけど、普通に犯罪だぞ。」
「えーノリ悪いよ。あいつらもよんでさ、あの頃みたいに四人で行こうぜ!」
あまり気は進まなかったが、あの頃みたいに、という言葉が今はどうしても魅力的に思える。
「…まぁ、あいつらが行くっていうなら。」
この時の言葉が、一生後悔する言葉になるなんて、思ってもみなかった。
廃墟は、まだ息をしている 霜月 響也 @kyouya08
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