『ヤンキーはクビです』組織を追放されたアラフォー。退魔会社を起業したらヴァルキリーに憑りつかれて、さらに最強退魔師に成り上がる。~元部隊が帰って来いって? いまさら言われてももう遅い~
ひなのねね🌸カクヨムコン11執筆中
第1話 ヤンキー、リストラになる
「
今日も仏壇の前で、俺は手を合わせる。
並んでいるのは、どう見ても遺影とは思えない二人だ。
革ジャン姿で腕を組んだ爺さんと、レディース特攻服に身を包んだ婆さん。
生き様だけは、最期までヤンキーだった。
でも一応言っとくが、俺はヤンキーではない。
祖父母の代から受け継いできた、目つきも顔つきも悪いただのオッサンだ。
「ったく……俺は毎日スーツ着て働く、真面目な国家公務員なんだぜ?
少しくらい、褒めてくれてもいいだろ?」
返事はない。
祖父母に育てられ、今は一人暮らしだから当然なのだが。
立ち鏡の前に立ち、身なりを整える。
定期的にクリーニングへ出しているスーツ。
アイロンの効いた白いワイシャツ。
短く整えた黒髪に、無精髭の剃り残しもない。
完璧な――四十三歳の完成形だ。
玄関で革靴に足を通し、棚の上に置かれた写真へ視線を落とす。
簡素な額縁の中では妻と娘が写っていた。
「愛してるぜ、
一瞬、宝石みたいな笑顔が返ってきた気がして、俺はスーツの上から、龍の刺繍が入ったスカジャンを羽織る。
――そう。
俺の仕事は、国家公務員の退魔師だ。
◇
「黒上君。キミ、明日から来なくていいから」
出社して間もなく、部長に呼び出された。
用件は――リストラの通告だった。
「明日……さすがに急すぎません?」
「今の国家怨霊災害対策課――NODCD《ノッド》はな、若者強化に舵を切ったんだ」
薄くなった頭を脂汗で光らせながら、鈴木部長は続ける。
嫌味はいつものことだが、今日は別格だった。
「はあ?」
俺の目つきの悪さは世界一。
しかし見た目はヤンキーだが、生まれてこの方、人を脅したこともなければ、悪意をもって誰かを傷つけたこともない。
そんな俺の口から、素で「はあ?」が出た。
それだけで察してほしい。
「だから君、クビね」
「――鈴木部長。
三年前の関東崩壊霊障事件のあと、一般公募で拾ってもらった恩は感謝してます。
死ぬ気で、怨霊とも戦ってきました」
一歩、前に出る。
「ですがね……その理由は、人として筋が通ってないんじゃないすか?」
「ひっ……!」
部長は小さく声を上げ、後ずさった。
そのとき、出入口の脇に立っていた男が、愉快そうに口を開く。
「黒上隊長。ここは大人しく身を引いたほうが、格好いいと思いますけど?」
「……
白いスーツに、整った顔立ち。
腰にはNODCD支給の退魔日本刀。
十八歳そこそこの青年が、にやついた笑みでこちらを見ていた。
「僕も呼ばれてたんですよ、鈴木部長に。
第四部隊の新隊長ミーティングでね」
「なんだと……?」
鈴木部長は、無言で頷いた。
「これからミーティングなんです。
……ああ、黒上元隊長?
いや、ただの黒上オッサン、でしたっけ」
「そ、そうだぞ、黒上君……!
君はもう用済みなんだ、上の命令は絶対……ッ!
まだ居座る気なら、あ、あれだ、白峰院新隊長に追い出してもらうからな……!!」
泣きそうな声で吠える部長を背に、俺は腰の刀を抜き――、
「ひぃ!」
「やるんですか、黒上ぃ?」
静かに鞘へ戻し、刀を机の上へ置いた。
続けてスーツの内側に装備した対怨霊装備の手榴弾をはじめとした細々な装備を一つずつ並べる。
――今までありがとうな。
「……世話になりました」
九十度、深く頭を下げる。
部長ではない。
NODCDで他人のために命を張ってきた、名もなき偉大な先人たちへ。
「くはは、だっさっ」
白峰院の笑い声を背に、扉へ向かう。
「白峰院。第四部隊のメンツ、潰すんじゃねえぞ」
「あんたよりもマシな隊長なんだから、当然じゃんか」
退職者に対しては既に敬意を払う必要もないらしい。
――と、扉の外へ出ると、至るところに気配があった。
観葉植物の影。
廊下の曲がり角。
自販機の脇、ゴミ箱の裏。
――相変わらず、不器用な奴らだ。
隠れて聞くならもっとうまく教えただろうに。
「お前らも元気でな、よく食ってよく寝ろよ」
心残りは白峰院の部下となって残された
いや、逆境に対する心構えは教え込んだ。
心配すること自体失礼だろう。
俺は最後に、腕を軽く振り、その場を後にする。
これが――俺が死ぬ三〇分前の出来事である。
【あとがき】=============
仁義を情を重んじる中年と、世間知らずなヴァルキリーの退魔師バディ物です。
よろしければお付き合いください。
カクヨムコンテスト11の公募作品(~2026年2月2日(月)午前11:59迄)です。
もし「好きな方向性!」「気になるかも!」という方は、【★で称える】【+フォロー】でサポートいただけると、とっても嬉しいです!
気力の高まりにより、さらに作品の魅力をお届けしてまいりますので、お力添えのほど、なにとぞ、よろしくお願いいたしますー!
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