《世界で一番熱い初期魔法》「ファイアーボール」しか使えないと追放された俺、実は重力で【恒星】を生成していました ~魔導学院の「不適格者」は、のじゃロリ師匠に教わった神域の業で世界の理を焼き尽くす~
いぬがみとうま
第1話:灰と種火と星詠みの魔女
1. 蹂躙
熱い、と思った。
けれど、それは生命の鼓動がもたらす体温ではなかった。
家を、村を、そして愛する両親を焼き尽くす、死の熱量だった。
十歳の少年にできることは、何一つなかった。
目の前には、巨大な真紅の体躯を持つAランク魔獣『焔獄狼(フレイム・ウルフ)』が、牙から滴る溶岩のような唾液を地面に落としている。その一滴が、事切れた父親の背中を焼き、不快な音を立てた。
(ああ、殺される)
逃げる足はとうに折れていた。
視界が赤い。涙のせいか、燃え盛る故郷の炎のせいか、それとも飛び散った返り血のせいか。
狼が、最後の一口を求めて顎を開いた。その口内からは、地獄の業火を凝縮したような熱気が吹き出す。
その時だった。
「やかましいのう。わしは今、今宵の寝床を探しておるのじゃ。犬の分際で、風情もへったくれもない吠え面を晒すでないわ」
鈴を転がしたような不思議な声が響いた。
狼の動きが止まる。
少年の視界の隅に、場違いな影が入り込んだ。
白銀の髪を夜風にたなびかせ、豪奢なフリルの付いた黒いドレスを纏った、十四、五歳ほどの少女だった。
少女は、自分よりも数倍巨大な魔獣を、羽虫でも見るかのような冷淡な瞳で見つめている。
「グル、ア……ッ!」
魔獣が脅威を感じたのか、その喉奥に最大の火炎ブレスを溜めた。
だが、少女はただ、退屈そうに指を鳴らしただけだった。
――パチン。
音が響いた瞬間、世界から色が消えた。
いや、圧倒的な「白」が全てを塗りつぶしたのだ。
爆音はない。衝撃波すらない。
ただ、絶対的な熱。
狼が放とうとしたブレスごと、その巨大な肉体が、背後の森ごと、一瞬で「消失」した。
後に残ったのは、ガラス状に融解し、月光を反射して光る不気味な円形のクレーターだけだった。
少年は、恐怖を忘れていた。
ただ、そのあまりにも純粋で、あまりにも美しい「光」に魂を奪われた。
「……お主、まだ生きておるのかの?」
少女がこちらを振り向く。その紅い瞳には、慈悲も、ましてや正義感など欠片も宿っていない。
少年――イグニスは、折れた脚を引きずり、溶けた地面を這って、少女のドレスの裾を掴んだ。
「教えて……くれ」
「ぬ? 何をじゃ」
「今の、炎を。あんたの……その、何にも負けない、炎を」
少女――星詠みの魔女アストラルは、面白そうに目を細めた。
「くかか! 愉快な童じゃ。親の死体も放置して、力(ひ)を乞うか。お主、相当に頭が焼けておるのう。……よい。わしの暇つぶしに付き合う覚悟があるなら、地獄の底まで連れて行ってやろう」
それが、後に『極点の種火』と呼ばれる男の、最初の産声だった。
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