正式ヒロインは私!

かふぇもか。

第1話【幕開き/プロンプト配布デー】


プロンプト配布法。


__今や”当たり屋制度”と揶揄される我が法律は、かつて国民皆が夢を見た栄華の象徴を紡ぐ、新たな”魔法”である。


...これは”君が主人公になるため”に成立された法である。




──プロンプト配布デー──


ここはセレスタリア王国。

かつて”実在しない魔法の王国”と囁かれ、物語で世界を魅了した島国である。


__だが、魔法は世界の誰も気付かぬ間に音もなく失われていったのだ。

かつての物語は、新たな時代__物語の商業化へと舵を切った。



「ママも女神様もおはよう!!」

「コラァ!女神様にちゃんとご挨拶しなさい!」


朝から賑やかな声が響く。


「今日も女神様のご加護がありますように。」

「今日はプロンプト配布の日でしょう?」

「あー、あの当たり屋制度ね……。」


魔法を失った政府は、魔法の遺物を”物語”として他国へ流通、販売を開始した。


__かつて壮絶な恋をした女性の物語が。

魔王を倒す勇者の物語が。

はたまた自由を夢見て空へ飛び出す少年の物語__。


すべての物語は他国でエンターテインメントとして流通している。


しかし、資源とは有限である。


そこで、私が紡いだ新たな”魔法”こそ、プロンプト配布法。

国民全員に“キッカケ”を配布し、新たな物語を紡がせる実に合理的な制度である。




『ーー20秒後にハンカチを落としてくださいーー』


「ハンカチ、落ちましたよ。君にぴったりの素敵なカラーだね!」

「はあ……どうも。拾ってくれてありがとう。」

「ハンカチから始まる恋物語は定番だが、どうだい?僕と付き合ってみるかい?」


ハンカチから始まる恋物語は使い古された手法である。古の、、と言っても過言ではないのではなかろうか。


「正気か?自分の歳考えたら?おじさん。」

「お、おじ...おじさん?!私が?!」

「どうみたっておじさんだけど。」


なにも始まらなかった。

古今東西、おじさんとは無駄に自己肯定感の高い生き物である。

押し黙るおじさんに少女は今しがた拾ってもらったハンカチを差し出した。


「...なんか、ごめん。

これあげるからさ、涙拭きなよ。」


颯爽と去っていく少女をぽかんと見つめながら彼は悲しげにつぶやく。


「僕はもう、ラブコメは終わりか。」


『__物語ポイント2ポイント加算されました__』


__こうして、また一つの物語が動き出す。


そう。

ここは誰もが主人公になり得る国。




ようこそ。我がセレスタリアへ。

ここは”物語”の始まりの地である。

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