JKにグイグイこられて恋に落ちた話
杏樹
高嶺の花の女の子
「あの!一緒に遊びに行きませんか?」
声が裏返りながら手を震わす少女の言葉だった。
目の前には不安そうに私を見つめる女子高生が立っていた。
現在、大学3年生の私はアルバイトに明け暮れていた。
理由は特にないが暇な時間よりも、働いてお金をもらった方が将来きっと役に立つはずだから。
塾の先生として中学から高校までの英語を担当している。
学校は別に好きな場所でもないし、嫌いな場所でもない。
よく『高嶺の花』と同級生に呼ばれていた。
見た目のせいか、性格のせいか。
はっきりとはわからないが、それ以上に私が友達を作る勇気を持ち合わせていなかった。
そんな高校生活を終えて、大学生になり時給の高さからこのアルバイトを始めたが、何だかんだ合っていたらしい。
「れーちゃん!ここわかんない!」
「この前の期末試験10点上がった!」
「模試、結果悪すぎてスマホ禁止令出たー」
生徒に恵まれた私は楽しみながら続けられている。
「れいちゃん、彼氏は?」
気さくに話しかけてくれるのはありがたいのだが、私に恋愛話をされても困る。
「いない。できたこともない」
みんなの方が恋愛に関しては経験が豊富だと思っている。
今まで異性とは全く縁がなかったので、恋人なんていたことがなかった。
SNSで見る恋人の写真に羨ましいと思うこともあるが、私には辿り着けない陽の世界だと思っている。
「気をつけて帰ってね。直帰してお風呂入って寝る。分かった?」
「はーい!」
元気のいい返事を聞いて、少しだけ安心する。
みんながそれぞれ塾を出ていき、ようやく私も帰宅の目処がたった。
「お疲れ様です」
軽く頭を下げて事務所を出ると、突然服の裾を掴まれた。
「麗子先生」
私の名前をそう呼ぶ生徒はかなり少ない。
多くの生徒は勝手にあだ名をつけて呼んでいる。
「飯田さん?どうしたの?」
何か悩み事があるのか、彼女は下を向いたまま無言で立っていた。
こういう時、大人はどう対応するのが正解なのだろうか。
成人式を終えても、大人には全然程遠いと感じる。
「あの!一緒に遊びに行きませんか?」
その言葉に私は何と返すのがいいのだろう。
塾であろうと生徒と先生。
あまりプライベートで仲良くするのはよくないのだろうか。
「今月末で塾辞めるんです。だから!塾には縛られなくて……えっと、ダメですか?」
飯田華、高校三年で明るく元気な性格。
頭もそこそこ良く、優秀な生徒だと記憶している。
生徒から聞いた話によると高校一年の時アイドルのオーディションに受かり、芸能活動をしていたらしい。
可愛らしい顔をしているので人気もあったのではないだろうか。
「いいけど。私と遊びたいの?」
彼女とはあまり話したことがない。
英語の授業を取っていないので、自習室で何度か勉強を教えたくらいの仲だった。
「はい!その……仲良くなりたくて」
真正面からそんなことを言われるのには慣れておらず、戸惑ってしまう。
「じゃあ来月、どこかでご飯食べにいく?」
彼女は首をブンブンと振って肯定した。
連絡先を交換し、それぞれ家に帰っていった。
私と友達になりたい人は珍しいと思う。
気難しい性格をしている自信がある。
自分から声をかけることは絶対にしない。
塾でも先生としては何とかやれていると思うが、一人の人間としては全くの未完成だ。
友達になりたいと思ってくれる子がいたという事実に驚きを隠せない。
「華です!急にごめんなさい。ありがとうございました」
その言葉と共に可愛らしいスタンプが送られてきた。
彼女は可愛い物が好きなのだろうか。
筆記用具を見た時に、カラフルで可愛いと感じたことがあった。
勉強も頑張っているし、何か友達としてしてあげられることはないだろうか。
少しでも彼女の笑顔を見られたら嬉しいと思った。
「お、お待たせしました!」
私に気づいて走ってくる姿が何とも可愛くて、妹のように思えた。
彼女が行きたいと提案してくれたランチに行くとおしゃれな空間にソワソワしてしまう。
こういう場所にはあまり来ないので周りのものに目がいってしまう。
「制服以外初めて見た。可愛いね」
私とは正反対な可愛らしい服装についついじっと見つめてしまう。
小動物とかそんな感じに見える。
「先生こそ!バチバチスタイルでかっこいいです」
塾ではさすがにTPOを弁えた服装をしているがプライベートでは自分が好きな服を着る。
ピアスだって隠さない。
「何個空いてるんですか?」
ピアスの数が気になったらしく、目を輝かせる。
もう、何個開けたかわからないピアスを鏡越しに必死に数えた。
「耳に9個とヘソに一個だね」
ピアスの穴が増えていくたびに、母に心配されたのを思い出す。
よっぽど気になるのか、視線はずっと耳に向かっていた。
「失礼しまぁ!ご、ごめんなさい!」
店員がお水を持ってきてくれたのだが、トレーが滑って机に盛大に零してしまった。
「大丈夫です。何か拭くものもらえますか?」
ペーパーナプキンではさすがに足りない量で、流れが止まらない。
「大変申し訳ございません。お客様、お洋服のクリーニング代を……」
よく見ると自分の服にも水がかかっていた。
水を零した店員を見ると『新人』と書いてあったのでそれはちょっと気が引けた。
「いえ、大丈夫です。気にしないで。大丈夫だからね」
青ざめているように見える新人の子に笑って対応していると飯田さんが視界に入ってきた。
「……好き」
その言葉が誰に向けられたものなのかこの時は理解できなかったが、ポロリと零れた本音は私の心を動かすものだった。
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JKにグイグイこられて恋に落ちた話 杏樹 @an-story01
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