魔法少女と二代目。

ささかま 02

魔法少女と解体業

怪物がいる日常

01 魔法少女が現れると解体業者が儲かる


 世界には魔法少女がいる。

 何なら怪物なんて呼ばれるやつらもいて、好き勝手暴れて街を破壊しては、魔法少女たちに撃退されてどこぞの不思議空間へと帰っていく。


 ピンク青黄色と色分けされた三人の魔法少女の活躍に、街の連中は感謝し、危機は去ったと喜ぶ裏には、もちろん頭を悩ませる人間もいる。

 頻繁に現れる怪物が壊していく建築物。これが厄介なわけだ。


 魔法少女に怪物が撃退されるまではいい。その後、怪物が消えても、壊された物はなかったことにはならず、散らかしたら散らかしたまま。壊された家やビルを前に、肩を震わせたり、呆然とする所有者を何度見たことか。

 魔法があるなら、不思議パワーで建物被害もなかったことにできなかったのか? マジで心苦しいんだよ、アレ。


 根本からぽっきり折れた電信柱に潰された家屋やら、怪物がぶつかって支柱が折れたビルとか。怪物が現れるようになって日常的に目にするようになったが、これで人死にが起きていないのはある意味奇跡だよなぁ。

 いや、再建で首が回っていない人間ってのはいそうだが。


 さて、俺がなんでこんなことを言っているかというと。

 俺がその怪物にやられた死傷者第一号になりそうだからなんだな、これが。


 目の前には、黒い体表に赤い目と鋭い爪といった、いかにも子供向けアニメに出てきそうな怪物が俺に狙いを定め、今にもこちらに駆け出そうと踏み込みの体勢を整えている。

 あぁ、これは明日の新聞に載るだろうか。三面の片隅に荻野孝樹、二十六歳。解体業者、荻野商事の二代目社長、怪物に襲われ死亡ってか? 勘弁してくれ。


 獣のような咆哮を上げ、怪物が俺に向かって飛び掛かる。こいつらって獣と分類していいのか? 確かに今の咆哮は熊とか狼とかあのあたりの動物に似ていたが、なんて現実逃避をする。

 正直乾いた笑いしか出ない。眼前には既に鋭い爪が差し迫っている。こいつが動物かそうでないかなんて、どうでもいいな。

 とりあえず、死んだわ。


「フラワーウォール!」


 どこからか高い女の声がしたかと思ったら、これまたどこから湧いて出てきたのかもわからない花吹雪に覆われて視界一面がピンクに染まる。半開きだったせいで口の中に花弁が入ったんだが。

 ボインッと、おおよそこの場に似つかわしくない音がしたと思ったら、すぐにガシャァと、明らかに何かが潰れる音がする。アレ、間違いなくコンクリートとか石系の崩れる音だろ。俺は解体業者だから詳しいんだ。


「間に合ってよかった。怪我はない?」


 俺の視界を遮っていた花吹雪が散っていく。トンッと、つま先から着地した女の子が、花弁をまとわせながら俺を見てふわりと笑った。

 ピンクの髪に、同じような色の可愛らしいフリフリの洋服。手に持った弓状の何かを構え、俺を庇うように怪物との間に立つ。彼女に続いて青い子と黄色い子もどこかしらから飛び降りてきた。

 ああそうだ。彼女たちは、魔法少女だ。


「もう大丈夫だよ、お兄さん」

「あ、あぁ。ありがとう」


 幸いにして尻餅をつくことこそなかったものの、立ち尽くす俺をピンクが安心させるように笑った。

 どこかで見たことあるような笑い方だが思い出せない。


「ピンク!」

「うん! 行って、お兄さん」


 怪物と戦うために背を向けたピンクの魔法少女と同じように、俺も背を向けてその場を後にする。

 このままここに居ても邪魔になるだけだろう。


 しかしまぁ。ニュースの映像で、怪物相手に遠目に魔法やら肉弾戦やらを繰り広げているのをよく目にするが、普段魔法少女はあんなのと戦っているのか。

 仕事柄、戦いが終わった後の被害状況はよく目にするが、戦闘に巻き込まれたのは初めてだ。


 というか、よく見ていなかったが随分とまぁ、街を破壊してくれて。辺りの住人はそうそうに避難したのか、人気はないものの、代わりに街灯が何本か折れたり建物にヒビが入ったりしている。

 現場の差し入れにシュークリームでも買っていくかと寄り道しただけだったんだがなぁ。残念ながら近場のパーキングに車を入れて商店街に入ったところで巻き込まれたので、何も買えなかった。


 避難、するべきなんだが、これはどうしたものか。やはり徒歩で逃げた方がいいのか?

 さすがにパーキングに行って車で退避するのは空気が読めていないと言われるのだろうか。幸い今まで怪物が暴れているのに巻き込まれた経験がないので、その辺りの作法がわからない。


 幸いと言えば、商店街にいた市民は皆そうそうに退避したのか、パーキングに来るまでに逃げ遅れた人に会うこともなかった。

 逃げ遅れたのは俺だけという事実に羞恥を覚えればいいのか、恐らく大きな怪我をした住人がいないことに喜べばいいのか。悩ましいところだな。


 ちらりと逃げてきた方を振り返る。ちょうど、魔法少女たちが怪物に向けて七色に輝くビームを繰り出しているところだった。

 今時の魔法少女はビームも打てるのか。


 妙な関心をしつつ、ポケットに入れた車のカギと、小銭を探す。

 一際大きな怪物の悲鳴と、怪物がよろけた際にぶつかった建造物の悲鳴を聞きながら、鍵を取り出した。あのビル中の鉄骨やられてそうだな。


 どういう原理なのかはわからないが、怪物の体表と同じ黒色の歪みみたいなものが現れて怪物を呑み込んでいく。

 これで危機は去ったのか? 


 あちこち壊されてはいるが、まぁ、うん。

 この撤去やら解体やら。うちの会社に依頼来ないかなぁ。



****

読んでいただきありがとうございます!


一般人視点での魔法少女ものです。

世界は救えないけど、街の発展には協力している系主人公は、魔法少女のいる世界でどう生きるのか。


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