暁華の未知なる未来

秋月一花

第1話

「十六歳の誕生日、おめでとう。元気で暮らすんだよ」


 後宮の門の前で母親から祝福の言葉をかけられて、シャオホアはハッと顔を上げた。


(――今度は中華風の世界!?)


 流れ込んでくる記憶に眉根を寄せ、自身の手のひらに視線を落とす。


 着ている服は古代中国で着られていたという長裙で、色は薄桃色。


 艶のある黒髪は長く、結い上げられていた。


 瞳の色はまるでルビーのような赤色をしている、今生の自分の姿を思い出していると、母親が暁華の肩に手を置く。


「どうしたの、暁華。ほら、門が開いたから、行かないと」


 門番たちが怪訝そうに暁華たちを見ていることに気づき、彼女はこくりと首を縦に動かして、ノロノロとした動きで後宮に足を踏み入れた。


「では、ついてきてください」

「……はい」


 背の高い宮女が暁華を案内する。


 いろいろな建物や庭園のある場所を物珍しそうに眺めながら、暁華はこれまでのことを思い出していた。


 一番古い記憶は、日本人として暮らし、なにが原因だったのか覚えていないが命を落としたこと。


 その後、西洋風ファンタジーの世界で十六歳の誕生日にその記憶がよみがえり、パニックになった。


(あのときは大変だったわねぇ……)


 暁華は、何度生まれ変わっても十六歳の誕生日で記憶が戻り、その世界で使えていた魔法や技が使えるようになる。


 おそらく、今回もそうだろうと考え、少し期待に胸を膨らませた。


(中華風の世界で後宮入りかぁ……)


 これまで中華風の世界に生まれ変わったことはない。


 だからこそ、この世界は未知との遭遇だ。


「こちらが、今日からあなたが暮らす場所です」

「……ここが……」

「ようこそ、後宮へ」


 宮女は頭を下げて、そのままスタスタと歩き始める。


 どうやらこのまま建物内を案内してくれるようだ。


 華やかな場所だが、掃除は行き届いているらしく、空気が澄んでいる。


(不思議な感じ)


 今まで、西洋風ファンタジーの世界と和風ファンタジーの世界に生まれ変わっていたため、中華風、しかも後宮に入ることになるとは……と肩をすくめた。


「今日はこのまま休んでいてください。明日からはやってほしいことがございます」

「今日からでも構いませんよ?」

「いえ、明日からお願いいたします。……こちらがあなたの部屋になります。どうぞ、ごゆっくりお休みください。明日から、忙しくなるでしょうから」


 宮女はそう言い残して、暁華をその場に置いていった。


(いったい明日、なにを頼まれるの?)


 とりあえず、暁華は自分の部屋に入った。相部屋のようで寝台がいくつかある。


「あら、新入りさん?」


 背後から声をかけられて、肩をビクッと跳ねさせると、「驚かせちゃった? ごめんなさいねぇ」と続けられ、おそるおそる振り返った。


「あなたは……」

「私もこの部屋なの」


 にこっと人懐っこい笑顔を浮かべ、彼女は部屋に入っていく。


 それに続くように暁華も部屋の中に足を踏み入れた。


「私はチャンショウリンよ。よろしくね」


リン暁華です。よろしくお願いします」


 ポスッと寝台に座る笙鈴は、暁華をじぃっと見つめて、「ふむ……」と言葉をもらす。


「あなたは……この後宮で生き残れると思う?」

「えっ?」


 それはどういう意味なのだろうか、と笙鈴を凝視する暁華。彼女はひらりと手を振って、苦笑した。


「ごめんごめん、最近変なことが多くてさ。あなたも気をつけたほうがいいよ」

「……わ、わかりました……。お気遣い、ありがとうございます」


 変なこと、が気になったが笙鈴はそれ以上なにも言わず、「ちょっと休憩するわ」とゴロンと寝転ぶ。


 その後、しばらくのあいだ、すやすやと眠る彼女の寝息が室内に響いた。

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