喚き散らすチャッカマン

@kafu714

第1話火の海

この世界はなかなかにおかしい

人々の頭にはチャッカマンのようなものがあり、そこから炎が出ている

その炎が大きく熱ければその人は楽しく、強く生きている証拠だ。

反対に炎が小さく、消えかけならその人は近々死ぬことを意味している

そんななか俺の炎はまだついていない。

俺の名前は……言わなくていいか、個人情報だし、まぁやる気のないチャッカマンだとでも思ってくれ、何故俺に炎がついていないのか普通なら燃料がなかったり、命が燃え尽きたとおもうだろ?

じゃあ何故か?俺には燃料もあるし生きる活力もある、ただ足りないのは火打ち石……生きることへの強い衝撃だ……

世間の成功した人物は皆こう語る、「僕は幼い頃この炎は小さかったんだ……これぐらいにね」2つの指で1センチほどの空間を作り、話を続ける

「ただある衝撃的な出来事で僕の運命は、このちっちゃな炎は変わったんだ、だからこれを見ているみんなは諦めず強い衝撃に出会うチャレンジをしてみよう!そうすればきっと……」

そこでテレビの電源をプツンと切る……綺麗事ばかりで頭がズキズキしてくる、強い衝撃といったてそれは言わば偶然……もっと言えば奇跡みたいなものだ。

特別な発明をした、希少な生物を発見した……努力云々言うがそれは自分の生まれ持った力がそのまま衝撃に加わっただけだ、それがどれだけ努力したと仮定してもだ

外はケーキに刺さったろうそくのように炎がそこら中に揺らめいている。

こんなネガティブな考えで俺に火がつくのか、また頭がズキズキと痛んでくる。

気分転換に散歩にでも行こう、そう思い身支度を済ませる

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家から離れあたりをキョロキョロと見回し、笑顔できれいな火が揺れているのが目に入る、そんな世間に、そんな自分に反吐が出てくる。

横断歩道へ差し掛かる、そこで無邪気な子供の声が聞こえる

「俺がボール取ってくるよ」

一人の男の子がそう言いボールを追いかけるのが目に入ってくる

ボールは勢いよく車道へと転がっていく、それにつられ男の子もついていく

車道の中央線で追いつき、ボールを手に取る、先程まで車の通りは少なかったはず無のに急に多くなり、男の子は逃げ道をなくしてしまった

俺含め、異変に気付き始めた人々が集まってくる、そこかしこから

「警察呼べよ」だの「誰か早く助けてあげなよ……」など他人任せで、頭の上の炎は飾りかとも思ったが、一種の飾りのようなものだ。

男の子は目に涙を浮かべ始める、混乱して、車道に飛び出ては一大事だ。

頭にはいろんな考えがぐるぐると巡る、もし助けに行って俺が轢かれたら、また交通量が収まったら、そんな戯言が頭を駆け巡って、強く握りしめた手のひらはびしゃびしゃになっている。

あぁ、もう……どうなってもいいか…そんな諦め半分に覚悟を決め……車の列に突っ込んでいく、一つ一つ通り過ぎるタイミングを見る、

「いまだ!」

頭で叫び、車道へ足を踏み出す、次の車が来ないか、今車が来たらそんな考えも全部何処かへ吹っ飛んでいった

「はぁ…はぁ…大丈夫?頑張ったね!」

お世辞にもかっこいいとは言えない格好、表情だろうがそんなことはどうでもいい

男の子の頭をグシャリと撫で回し、手を差し出す。

手を強くつなぎ、もう一回タイミングを見定める。今!と叫び男の子と一緒に走り出す、男の子は無事に歩道に着いたが……俺は盛大にコケてしまった、ここから立ち上がっても間に合わない

そんなことを考えているとプーとクラクションの耳を刺す音が聞こえる、膝立ちのまま歩道へ飛び込んだ時、自分の中で何かがカチッと火花を散らした。

急ぐ呼吸を落ち着かせ、男の子の姿は見当たらない、

何やってんだろ、と現実に戻ってくる自分抜きで勝手に盛り上がる野次馬どもを睨みつけ、家へと向かう、少し頭が熱いなと感じる、さっきの感覚といい、少し不思議な感覚だがさっきよりはスッキリとしている。

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家へと帰り、姿鏡を覗くとそこには頭上に赤く煌めく炎がなびいている

体の動きが固まり……ふんと得意げに鼻を鳴らす

少し体を伸ばし、心のなかで静かに叫んだ

「思いっきり喚いて行くか。」


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