平凡な私の、おもしれー男観察記録~鈍感お嬢様は恋のフラグ破壊者(クラッシャー)~
月白奏
プロローグ
ビルの二階にあるファストフード店。
窓際のカウンター席に陣取った私は、すっかり氷が溶けて水っぽくなったドリンクを啜りつつ、路上を行き交う人々を睨みつける。
――来た。
「安井」
「どうぞ、お嬢様」
そばに控えていた執事の安井から双眼鏡を受け取る。
ここから道路を挟んだ反対側にコーヒーショップがある。そこのテラス席に、私が血眼になって探していた二人の姿があった。
『ママー。あのお姉ちゃんたち何してるのー?』
『シッ。見ちゃいけません』
通りすがりの親子に不審な目を向けられているが、気にしてはいられない。私にとってあの二人を観察することは、いわゆる「推し活」の一部だった。
……それにしても、相変わらずの美男美女カップルだ。思わずため息が出てしまう。
私は目を細め、彼らが注文した飲み物の解析を試みる。
甘いものが好きな市之瀬君はホワイトモカ。これは予想通りだ。
一方のマリア様は……今日発売の新作だろうか? SNSにあげるつもりなのか写真を撮っている。キラキラJKの彼女はフォロワーもたくさんいるのだ。
ふと、市之瀬君が顔を上げる。視線がぶつかったような気がして、私は咄嗟に双眼鏡を放り投げた。
「なんてことするんですか、お嬢様。これ結構高いんですよぉ」
安井がぶつくさと文句を言っているが、それどころではない。
相手から見えないよう、できる限り身をかがめてストローをくわえる。ドリンクはいつの間にか空になっていて、ずるずると不快な音が周囲に響く。
――気づかれていないよね?
自業自得とはいえ、背筋が冷えてしまった。呼吸も浅くなって息苦しい。
いや、でも、わりと距離はあったから大丈夫なはず。たぶん。
学校でも何かと目立っている、市之瀬君とマリア様。
私は彼らに憧れているが、決して仲良くなりたいとは思わない。
いくつもの会社を経営している父と、国民的人気女優の母。そんな両親の元に生まれながらも、娘の私はすべてにおいて平凡だった。
だから彼らとは絶対に釣り合わないし、ああいうキラキラした人たちは、遠くから眺めるくらいがちょうどよいのだ――
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